民法上の利益衡量の結果
詐欺によって意思表示をした人は、その意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
その直前の95条は、法律行為の要素に錯誤がある意思表示を無効としています。
無効と取消しでは、表意者本人にとっては、無効の方が有利です。だって、意思表示は取り消されるまでは有効ですから(民法121条本文参照)、何もせずとも効果が生じない無効の方がありがたいわけです。
この効果の違いは、本人の帰責性にあります。
有り体に言えば、「騙される方も悪いのよ」というわけです。
詐欺のニュースを想像してもらうと分かりやすいかと思いますが、大抵、詐欺の被害者は、ぼろい儲け話があると信じ込まされて、自分もそれに乗っかって儲けようとしたわけです。ちょっと考えれば、そんなうまい話がないことなんてわかるはずなのに、欲に目がくらんで、付け込まれた、というわけです。なので、無効とするには取消しの意思表示という手間が必要なわけです(民法123条)。
他方、錯誤の場合、勘違いによって意思表示しちゃった人を想定していますから、有効と扱うのは可哀そうすぎるのです。なので、手間いらずで保護されるとなっています。
消費者契約法による取消し
民法を作った人たちは、おおむね上記のような利益衡量をして、効果の差異を設けました。しかし、詐欺(民法96条)と錯誤(民法95条)は、詐欺の要件として欺罔行為による錯誤が含まれていることからも明らかなとおり、けっこう重なる部分があります。
また、詐欺の被害者が金に目がくらんだ強欲な人というステレオタイプばかりでないことや、不注意な錯誤もあることも指摘されています。
このことを受けて、詐欺取消しと錯誤無効をなるべく同じに扱おうという観点から、「錯誤無効を主張できるのは本人だけだ」という相対的無効説が唱えられました。
ですが、詐欺の方の要件を緩和したりするわけではないので、救済されるべき詐欺の被害者の救済にはなっていないわけです。
このような経緯から、消費者契約法が制定されました。消費者契約法での取消しは、民法による取消しと比較して、容易になっています(消費者契約法4条等を参照)。
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