2013年8月7日

物上代位② 抵当権に基づく物上代位(『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨)

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

抵当権に基づく物上代位について考えます。

先取特権に基づく物上代位(民法304条1項ただし書の差押えの趣旨)はこちら

設問


Xは、Aに対して30億円の貸金債権を持っていた。Aは、4月2日、それを担保するためにA所有の甲不動産に抵当権を設定し、登記も経由した。

Aは、Yに対して甲を賃貸していた。

Aは、Bからも融資を受け、その担保として、5月2日、Yに対する将来の賃料債権を譲渡し、Yの確定日付ある承諾を得た。

AがXへの返済を履行しないため、Xは、6月2日、抵当権に基づく物上代位の行使として、AのYに対する賃料債権を差し押え、差押命令を得て、賃料債権の取り立てを請求した。

Xの請求は認められるか。Yの反論も考慮して考えよ。

Xの請求


Xの請求は、抵当権に基づく物上代位権の行使としての賃料債権の取立てです。

「抵当権に基づく」請求ですから、Xが抵当権を有していることを主張します。抵当権は金銭債権担保のための物権ですから、被担保債権が存在していることが前提となります。抵当権設定契約は物権行為ですから、設定者に不動産の所有権があることが必要です。そうすると、まず、

  • ①  被担保債権の発生原因事実
  • ②  抵当権が設定されたこと
  • ③  ②当時、設定者が不動産の処分権(所有権)を有していたこと

を主張します。

「物上代位権の行使として」の請求ですから、物上代位の対象となる価値代償物が存在していることを示します。本問では「賃貸」です。債権についての担保権の実行によることになりますので、

  • ④  A・Y間で賃貸借契約が締結されたこと(AがYに対して賃料債権を有していること)
  • ⑤  Xが④の賃料債権を差し押さえたこと
  • ⑥  差押命令がAに送達されてから1週間が経過したこと

をXが主張します。以上で、Xの請求が立ちました。

Yの反論


Yは、「Aの賃料債権はBに譲渡されていて、対抗要件も具備しているので、Xの差押えは空振りである」旨の反論をすることが考えられます。


  • 債権譲渡は民法304条1項ただし書の「払渡し又は引渡し」に含まれる。Xが物上代位するにはAが債権譲渡する前に差し押さえなければならなかったのに、Xの差押えは債権譲渡後である。

こちらでも、Xの差押えとAの債権譲渡の優劣が問題となります。抵当権に基づく物上代位権の行使と債権譲渡の優劣はどう判断するのか?です。H10年判決を見てみましょう。

判断


H10年判決を引用します。

民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
 右のような民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
 けだし、(1)民法304条1項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(2)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(3)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(4)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。

優劣基準の論理を整理すると、

  • 「払渡し又は引渡し」には債権譲渡は含まれない→物上代位と債権譲渡が競合する
  • 優劣は抵当権設定登記がなされた日時と債権譲渡の対抗要件が具備された日時の先後で決する

となります。

Xが抵当権設定登記を具備したのは4月2日で、Bが債権譲渡の対抗要件を具備したのは5月2日です。結論としては、Xの抵当権設定登記の方が早いので、Xの物上代位権行使が勝ちます。

物上代位③へつづく。

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