2013年12月12日

代理権の濫用。民法93条ただし書類推適用

代理権の濫用について書きます。

表見代理は、代理権の範囲外の行為であり、本来無権代理行為として本人に効果帰属しない代理行為を、虚偽の外観の存在を作出した本人の帰責性と第三者の正当な信頼ゆえに本人がその責任を負う制度です。

これとは逆に、代理権の範囲内の行為であって、有権代理として本人に効果帰属する代理行為を、代理人の背信性ゆえに本人が代理行為の責任を負わないとするべきと考えられている状況があります。「代理権の濫用」として論じられる問題がそれです(判例の場合。代理権濫用の法的性質については議論があり、判例のように有権代理構成とする立場と、無権代理構成とする立場があります)。

代理権の濫用の効果(目的)は代理行為が本人に効果帰属しないことです。

有権代理であればそれは原則として本人に効果帰属します。この例外を認めるためには根拠が必要です。

判例が採用している論理が「民法93条ただし書類推適用」説です。

これは、代理人が自己又は第三者の利益を図るため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知ることができた場合に限り、本人はその行為の責任を負わないというものです。

代理人が自己又は第三者の利益を図るため権限内の行為をしたとき」という部分が、代理人が代理権を濫用したことを意味し、「相手方が代理人の意図を知りまたは知ることができた場合に限り」の部分が、民法93条ただし書に対応しています。

類推適用ですので、類推の基礎を考えます。

民法93条は心裡留保を定めた規定です。「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」と規定されています。

表意者XはYをからかうつもりで、真意ではなく=嘘で、「甲を買う」と意思表示した。このXの意思表示は(意思主義からすれば本当は無効だけども)嘘をついたXを保護する必要はないから表示が優先され有効とされるのが民93条本文の想定する状況です。

Xが代理人で、代理権が濫用される場合を考えてみます。

代理人Xは、Zから甲を購入する代理権を授与されていたが、自身も甲を購入したいと考えていた。そこでXは、甲を持ち逃げするつもりで、「Z代理人Xとして甲を購入したい」とYに持ちかけ、Yから甲を受け取り、そのまま行方をくらました。この事例で、代理人Xの真意は「甲を持ち逃げすること=甲の利益を得ること」ですが、Xの意思表示は「Z代理人Xとして甲を購入する」=甲の買主となるのはZ=甲の利益を得るのはZを表しています。

この点に民法93条本文との類似性が認められるのです。


  • 民93条本文:真意=買うつもりはない  意思表示=買う
  • 代理権濫用:真意=代理人が利益を得る  意思表示=本人が利益を得る

しかし、この説明はかなり苦しく、批判を受けています。なぜなら、代理人の真意として想定されるものは本人に代理行為の効果を帰属させることであり、これを真意とすると、顕名の上なされた代理行為(意思表示)との間に食違いはないからです。民法93条ただし書を類推適用する基礎に欠けるとの批判です。

ぐうの音も出ません。その通りとしか言いようがない。

しかし、判例は、任意代理のみならず、法定代理においても法人の代表者の行為においても民法93条ただし書類推適用説で固まっています。最判昭和42年4月20日民集21巻3号697頁の少数意見のように信義則を根拠に代理権濫用行為を本人に効果帰属させないと考えていません。判例が信義則説をとらないのは、信義則説による論理構成の理由づけは利益衡量が前面に出すぎており、法律論にならないためだと思われます。

利益衡量を理由づけにするよりも、苦しいながらも法律論を展開できる民93条ただし書類推適用のほうがマシであるとしているのでしょう。

今日のところは以上です。

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