2013年12月14日

有権代理・表見代理の要件事実(的検討)

要件論はそれぞれの記事を参照してください。

有権代理(民99条)の要件
代理権授与表示の表見代理(民109条)の要件
権限外行為の表見代理(民110条)の要件
代理権消滅後の表見代理(民112条)の要件


法律要件の立証責任は、法律効果の発生を望む人が負います。

有権代理


有権代理(民99条)の要件は

  • 代理権の存在
  • 顕名
  • 代理行為 
ですが、これは有権代理であることを主張する者が立証責任を負います。

有権代理であることを主張する者は、本人であったり、代理人であったり、相手方だったりします。


表見代理


表見代理の要件は、表見代理の成立を主張する人、すなわち「本人は無権代理行為の責任を負う」と主張する人が立証責任を負います。代理行為の相手方と考えるのが自然でしょう。

本人も代理行為を自己に帰属させるため表見代理を主張することが観念できますが、それならば無権代理行為を追認すればよいだけなので(民113条1項)、本人が表見代理を主張することは考えなくてよいと思います。

また、無権代理人が表見代理を主張することはできません。表見代理が成立すれば本人が代理行為の責任を負うので、相手方はそこで満足し、無権代理人が民法117条1項に基づく責任を追及されることはなくなります。ですが、無権代理行為をした張本人がその責任を本人になすりつけるために表見代理を主張するのは代理制度の信頼を崩すものです。ですので、無権代理人が表見代理を主張することも考えなくてよいです。

表見代理の要件は
  • ①代理権授与表示(民109条)or基本代理権の存在(民110条)or代理権が存在したが現在は消滅していること(民112条)
  • ②顕名
  • ③無権代理行為
  • ④第三者の善意無過失or正当な理由
です。

これらのうち、①②③は、表見代理を主張する相手方が立証責任を負います。

注意を要するのは④の第三者の主観的要件です。

代理権授与表示による表見代理(民109条)の場合


民法109条では、第三者の主観的要件はただし書に規定されています。「第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない」=第三者が代理権授与がなかったことについて悪意or過失があるときは表見代理とならない、という規定ぶりです。

表見代理とならないことによって利益を得るのは、無権代理行為の責任を負わない本人です。

ですので、本人が、代理行為の相手方が代理権授与がなかったことについて悪意or過失があることに立証責任を負います。

権限外行為の表見代理(民110条)の場合


民法110条では、第三者の主観的要件は「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」と規定されています。

この正当理由は本文に規定されているので(正当理由がないときには表見代理が成立しないという規定の仕方ではないので)、表見代理の成立を主張する人(相手方)が立証の責任を負います。実務(判例)ではこのように考えています。

なお、正当理由の立証責任については、実務と学説で考え方が異なります。川井①(4版)248頁~では民109条と同様に本人負担で行くべきとされてますし、内民Ⅰ(4版)196頁では正当理由の立証責任を一般的に論ずるのは困難である(正当理由の内容について一般的に考えることができないから)としながらも、【もう一歩前へ】において、本人側が証明するべきとしています。

判例では相手方が正当理由の立証責任を負うとされますが、実印・印鑑証明書の交付があれば、特段の事情のない限り、正当の理由ありという扱いがなされています。この場合、本人の側で特段の事情のあることを証明しなければならず、学説への歩み寄りが見えます。

なお、特段の事情があるとされる場合につき、百選Ⅰ30事件参照。

代理権消滅後の表見代理(民112条)の場合


民法112条の場合、第三者の主観的要件のうち、本文に善意が、ただし書に過失が規定されています。

ですので、まず、表見代理の成立を主張する相手方が代理権の消滅について善意であることを立証し、これに対する反論として、表見代理の成立を否定する本人の側が、相手方が過失により代理権の消滅したことを知らなかったことを主張立証します。

判例実務は以上のように解されていますが、学説はここでも民法109条と同様に本人が主張立証すべきと考えています。

今日は以上です。

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