2013年12月29日

事実を摘示するだけで名誉毀損罪は成立します

友人とおいしいラーメン屋に並んでいるときに名誉毀損の話になり、事実を摘示して名誉を毀損したら名誉毀損罪なんだよ~といったらカルチャーショックを受けていました。説明を端折ったおかげで「事実は事実だろ?何で事実を言って犯罪になるわけ?何言ってんのコイツ?」的な顔をされたので、弁明。

2013年12月19日

取消しと登記。主張反論形式で

判例(大判昭和17年9月30日民集21巻911頁)の結論を導くための主張反論の運びを紹介します。判例解説は民法判例百選Ⅰ51事件(金子敬明)参照。

ポイントは、取消しと不動産譲渡のタイミング(取消しの前か後か)、無権利の法理の使い方です。「取消しの前後で適用条文が異なることは分かってますよ」とアピールしましょう。

事例は、Xが甲不動産を元所有、XA甲不動産売買・登記移転(詐欺)、X取消す、A甲不動産をYに転売・登記移転、X甲不動産の登記名義を取戻したい、です。取消しはYへの転売前にされた(転売は取消後)とします。

2013年12月18日

昭和51年判例の使い方

最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁(昭和51年判例)です。刑事訴訟法分野で最も重要な判例です。判例解説は刑事訴訟法判例百選1事件(大澤裕)参照。


2013年12月17日

刑法答案の書き方

初心者向け。細かいことは度外視して、こう書けば単位を落とさないという観点から答案の書き方を紹介します。


2013年12月16日

理事の代表権の制限 民法110条類推適用

定款で理事の代表権が制限されている場合、どのようにして制限されている取引をした相手方の保護を図るかという問題点があります。最判昭和60年11月29日民集39巻7号1760頁です。判例解説は民法判例百選Ⅰ31事件(能見善久)を参照。

判例は民法110条を類推適用して相手方の保護を図ります。なぜ民法110条を類推適用できるのか、その類推の基礎を考えます。

2013年12月15日

2013年12月13日

2013年12月8日

有権代理と表見代理② 代理権授与表示による表見代理

代理権授与表示による表見代理の要件についてです。民法109条です。

表見代理は無権代理の一種です。無権代理とは、有権代理の要件のいずれかを欠く代理であり、代理行為の効果が原則として本人に帰属せず(民113条)、その代わりに無権代理人が責任を負う
制度です(民117条)。ですが、表見代理は無権代理であるにもかかわらず有権代理同様に本人が責任を負うという特徴をもっています。

表見代理は代理の中の一制度であり、外観法理のあらわれです。ですので、有権代理との比較、外観法理との比較の中で要件を検討します。


2013年12月7日

有権代理と表見代理① 有権代理の要件

代理には有権代理と無権代理があり、有権代理ならば本人に代理行為が帰属しますが、無権代理では原則として本人に効果帰属しません。

表見代理は無権代理に含まれますが、無権代理行為の責任を本人が負わなければならず、結果的に有権代理と同様の効果が生じる制度です。

今回から数回にわたり、これら代理の要件をみます。今回は有権代理の要件です。

2013年12月5日

2013年12月4日

権利外観法理と民法94条2項① 民法94条2項直接適用

民法94条2項は、「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」と定めます。「前項の規定による意思表示」とは「相手方と通じてした虚偽の意思表示」のことで(同1項)、つまり、通謀虚偽表示によって作出された外観が有効に存在すると信頼して法律関係に入った第三者は保護されることを表しています。このことを定める民法94条2項は、権利外観法理(単に外観法理と呼ばれたりもします)の表れといわれます。

権利外観法理とは、真実の実体関係とは異なる外観が存在し、その外観の作出に本人の帰責性が認められる場合、外観が存在することについて正当な信頼を寄せた第三者を保護するという制度です。

分析的にみると、権利外観法理は、①外観の存在、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼の3点を構成要素としています。

今回から3回にわたり、権利外観法理という観点から、民法94条2項が直接適用される場合、民法94条2項が類推適用される場合、民法94条2項と110条が類推適用される場合のそれぞれの要件を検討します。


2013年11月20日

要件とは何なのか。

法律要件とか、構成要件とか、要件事実とか呼ばれたりします。法律を勉強することの大部分は、この「要件」というものを探求する作業と言えるでしょう。

この、「要件」というものについて、言いたいことを伝えるために何をどの程度記述すればよいか非常に悩ましいのですけれども、せっかちな性分ですので先に結論から申し上げます。

要件とは、


  • 効果を発生させるために必要なもの(代償、条件)
  • 背後に控えている哲学、制度趣旨、法的概念などが可視化されたもの

です。

2013年11月16日

無権利の法理

無権利の法理とは、「誰であっても、自らの有している権利以上の権利を譲り渡すことはできない」という、ローマ法以来の原則です。

通謀虚偽表示に対して第三者が民法94条2項で保護される趣旨を論じるときとか、○○と登記で(形式的には)第三者が不動産を取得できないことを根拠づける際に使います。

2013年11月10日

二重譲渡と登記

「第1買受人と第2買受人との関係に民法177条が適用されるか否かという話だろう?対抗関係にあるから、民法177条が適用される、第1買受人が第2買受人に勝つには登記が必要。以上」このように覚えている人もいると思います。。どんな教科書にも載っているおなじみの論点です。

ですが、無権利の法理登記制度の理想といったキーワードを用いて、問題点の所在を的確に押さえながら議論できますか。意外と難しいのではないでしょうか。不完全物権変動説に頼りきりではないですか?

以下、事例で考えてみます。

事例:甲土地は元Aが所有していた。Xは、Aから甲土地を1000万円で購入したが、移転登記手続はしていない。その売買の数日後、YがAに甲土地を2000万円で購入しようともちかけ、Aはこれを承諾し、同日中に登記も移転した。Yの購入・登記具備を知ったXは激怒した。XはYに対して移転登記の抹消を請求している。この請求は認められるか。

2013年11月5日

即時取得の「占有」。どうして指図による占有移転はイイのに、占有改定はダメなのか

民法192条の「占有」というためには、「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有」でなければならないとされています(最判S35年2月11日民集14巻2号11頁)。だから、占有改定では即時取得は肯定できないけれども、指図による占有移転ならば肯定できるとされています。


「何が『だから』だよ!説明になってないよ!大体、指図による占有移転も占有改定も自分以外の誰かが占有しているのだから、外観上の違いはないじゃないか!どちらも条文上は『代理人』が占有していることとなっているだろう!」というお怒りの声にも似た疑問をもつ方もいると思われます。

その疑問はもっともです。ですが、やはり、指図による占有移転と占有改定では違うのです。この部分を考えてみます。

2013年9月26日

既判力の後訴に対する作用:先決関係の検討方法

既判力の後訴に対する作用は、前訴と後訴の訴訟物が同一である場合(同一)、前訴訴訟物が後訴訴訟物の前提問題となっている場合(先決関係)、前訴訴訟物と後訴訴訟物とが実質的に矛盾する場合(矛盾関係)に認められます。

先決関係があるか否かの検討はどうすればよいのでしょうか。

2013年9月25日

二段の推定の2段目の推定

二段の推定の2段目の性質について、法定証拠法則か、法律上の事実推定かの考え方の違いがあります。この違いは、推定を覆すときの立証の大変さにつながります。法定証拠法則なら反証でよいけど、法律上の事実推定とするなら本証が必要、という具合です。

反証とは、本証に対峙する概念で、ある事実の存在について真偽不明とすることを目指す立証活動です。本証とは、立証責任を負っている当事者の立証活動で、裁判官に事実の存在について確信をもたせるための立証活動です。

1段目はこちら

2013年9月13日

裁判上の自白の成否

裁判所は、当事者間に争いのない事実については判決の基礎としなければなりません(弁論主義第2テーゼ。自白の拘束力)。ここでいう「当事者間に争いのない事実」とは、裁判上の自白が成立した事実を言います。裁判上の自白というのは、一方当事者が口頭弁論または弁論準備手続においてする、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述のことをいいます。

裁判上の自白が成立すると、

  • 審判排除効:裁判所はその事実についてそのまま判決の基礎とし、これに反する事実を認定することはできない
  • 証明不要効:自白された事実については証明責任が免除される(民事訴訟法179条)
  • 撤回禁止効:自白した当事者は無条件で自白内容に反する主張が禁止される

という強力な効果が生じます。

そこで、自白が成立するか否か(これは、『裁判所はその事実をそのまま判決の基礎とできるか(しなければならないか)』とか、『自白を撤回できるか』という問題設定と同じ意味です)がかなり深刻な問題となります。

このトピックについては、学説も百花繚乱で、華々しく議論されています。教科書や解説書にあたってみても、「なるほど!そうだったのか!」と明快に理解できるというより、「ごちゃごちゃとした議論がなされているな、よくわからないな・・・」という感想を持つかもしれません。

論点もてんこもりです。自白撤回の可否とか、間接事実の自白とか、権利自白とか、文書の成立の真正に自白が成立するかとか。だから、何を論ずればよいのか、その目印がほしくなります。

どうやって分析すればよいのでしょう?

2013年9月5日

答案を書きあげるために必要な能力

法律を勉強している方にとっては、司法試験や公務員試験、定期試験など、論文式試験を課されたり、あるいは、報告書等の提出を要求されることが多くあると思います。

制限時間内に論述を書きあげるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。

論述に高い評価を得られるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。


2013年8月31日

将来給付の訴え。請求適格論のこと。

大阪国際空港事件判決(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)は、継続的不法行為により将来発生する損害賠償の訴えが許される要件を判示しました。その要件は、

  • ①請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が現に存在し、その継続が予測されること
  • ②右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られること
  • ③これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないこと
の3点です。

将来給付の訴えは、法文上は「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」認められます(民事訴訟法135条)。この文言からすると、上記①の要件が要求されることは理解できます。しかし、②や、③の要件を要求した理由はイマイチわかりません。

今回はこの点を考えます。

2013年8月22日

共有物を目的とする賃貸借の解除。民法544条1項か、252条か?

共有者が共有物を目的とする賃貸借契約を解除することは、民法252条本文の「管理に関する事項」にあたるとされました(最判S39年2月25日民集18巻2号329頁)。

他方、民法544条には、解除の不可分性が規定されています。「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から……のみすることができる」とされています。

どうして、共有物を目的とする賃貸借の解除には、民法544条が適用されないのでしょう?この判決は、民法544条を無視してるのではないか?・・・疑問です。今日はこれを考えます。

2013年8月13日

【不動産譲渡担保】法的構成の違いが意味すること

「判例で書いてもいいんですか?」「何説をとるべきですか?」

このように思ったことがあると思います。誰かが口にするのを聞いたことがあるかもしれません。

ですが、自分がどのような考え方に立脚しようと、それだけで答案の評価は変わりません。学説の優劣を論じることが評価の主眼ではないのです。学説の優劣をつけるのは、学者の先生方が報酬をもらってする仕事です。自分がよって立つ考え方から論理的に表現できるかどうか、が答案の評価の分かれ目です。

不動産譲渡担保が問題となる事例で、所有権的構成と担保的構成のそれぞれの説に立ったときに、どのように論じていくのかを考えます。

事例

Aは、Bから、返済期限を2年後、利息を月1.2%として、1000万円を借りた。

Aは、Bの上記貸金債権を担保するため、自己所有の甲土地および乙建物をBに譲渡する契約を結び、直ちにそれぞれに関して所有権移転登記を経由した(不動産譲渡担保設定契約)。

この譲渡担保設定契約では、①AからBへの支払・返済が滞らない限り、Aはなお甲土地および乙建物を占有・使用できること、②Aが完済すれば、Bは甲土地・乙建物の所有権移転登記の抹消に協力すること、③Aの返済が滞った場合には、Bは直ちに甲土地・乙建物の所有権をもってAに対する全債権の満足に充てることができることが約定された。

その後、Aは完済した。

しかし、資金繰りに困ったBが、約束に反して、甲土地および乙建物をCに売却し、登記も移転してしまった。

Aは、Cに対してその登記の抹消を請求した。この請求は認められるか。

2013年8月7日

物上代位③ 「民法304条1項ただし書の差押えの趣旨」と「『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨」

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

先取特権の物上代位についての解説はこちら

抵当権の物上代位についての解説はこちら

物上代位② 抵当権に基づく物上代位(『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨)

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

抵当権に基づく物上代位について考えます。

先取特権に基づく物上代位(民法304条1項ただし書の差押えの趣旨)はこちら

設問


Xは、Aに対して30億円の貸金債権を持っていた。Aは、4月2日、それを担保するためにA所有の甲不動産に抵当権を設定し、登記も経由した。

Aは、Yに対して甲を賃貸していた。

Aは、Bからも融資を受け、その担保として、5月2日、Yに対する将来の賃料債権を譲渡し、Yの確定日付ある承諾を得た。

AがXへの返済を履行しないため、Xは、6月2日、抵当権に基づく物上代位の行使として、AのYに対する賃料債権を差し押え、差押命令を得て、賃料債権の取り立てを請求した。

Xの請求は認められるか。Yの反論も考慮して考えよ。

物上代位① 先取特権に基づく物上代位(民法304条1項ただし書の差押えの趣旨)

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

設問で考えます。

Xは、Aに対して、乙動産を代金1000万円で売った。

Aは、Yに対して、乙動産を代金1200万円で転売し、引渡した。

Aは、Bから融資を受け、その担保として、5月2日、Yに対する乙の転売債権を譲渡し、Yの確定日付ある承諾を得た。

AがXへの売買代金を支払わないため、Xは、6月2日、先取特権に基づく物上代位の行使として、AのYに対する転売代金債権を差し押え、差押命令を得て、賃料債権の取り立てを請求した。

Xの請求は認められるか。Yの反論も考慮して考えよ。

2013年8月2日

抵当権に基づく妨害排除請求の要件事実(的検討)

抵当権に基づく妨害排除請求権について。

抵当権は「占有を移転しないで」設定される担保物権です(民法369条)。ですので、不動産の占有権原がない抵当権者は、不動産の明渡請求をすることはできないのが道理です。なので、平成3年判決(最判平成3年3月22日民集45巻3号268頁)は、それを否定しました。

ですが、そうは言っていられない場合もあります。平成11年判決(最大判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁)は不法占有者に対する明渡しを肯定しましたし、平成17年判決(最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁)では適法占有者に対する明渡しも肯定しました。

この3判例を前提に、抵当権に基づく妨害排除請求がなされる際の主張反論事項をまとめます。判例解説は百選Ⅰ88事件(田高寛貴)参照。

事例


Xは、Aに対して10億円の貸金債権を持っている。Aは、2010年、この貸金債権を担保するため、自己の所有する甲建物に抵当権を設定し、登記を経由した。

Aは、Yに対し、2011年、賃料月額50万円(適正賃料は600万円)、期間5年、敷金1億円で甲建物を賃貸した。

2012年、Aは支払不能となったため、Xは、甲建物の抵当権の実行として競売を申し立てた。しかし、買受人は現れず売却できなかった。

検討


主張されるべき事実は赤字にします。Xが、Yに対して、抵当権に基づく妨害排除請求権として、甲建物の明渡しを請求することを考えます。

Xの主張(請求原因事実)


「抵当権に基づく」請求ですから、Xが抵当権を持っていることを表さなければなりません。また、抵当権は金銭債権を担保するための物権ですから、被担保債権が存在していること前提となります。さらに、抵当権設定契約は物権行為ですから、設定者に処分権があることが必要です。そうすると、抵当権の発生原因事実として、
  • ①  被担保債権の発生原因事実
  • ②  抵当権設定契約
  • ③  抵当権設定者がこの不動産を所有していること
をXが主張します。

「妨害排除請求」ですから、妨害されている事実=抵当権侵害を主張する必要があります。この点で参考にするべきなのが平成11年判決です。同判決は抵当権に対する侵害について、
第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。
と判示しています。これを前提にすると、抵当権侵害があることを摘示するためには、
  • ④  占有
  • ⑤  ④により、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
をXが主張します(抵当権侵害を示す客観的要件)。客観的要件を示す事実は、例えば、
  • ⑤-1  売却価額が下落したこと
  • ⑤-2  競売手続きが進行しないこと
などが考えられます。

さらに、Xが、設定者であるAへの明渡しではなく、自己への明渡しを請求することを正当化するために、
  • ⑥  抵当不動産の所有者において、抵当権侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないこと
を主張します。平成17年判決が、
抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである
と判示しているからです。

Yの反論


Yは、甲建物の占有が適法であることを示します。占有権原の抗弁です。
  • ⑦  A・Y間で甲建物の賃貸借契約が締結されたこと(+基づく引渡)
をYが主張します。

Xの再反論


これに対して、Xは、次のように再反論します。
  • ⑧  占有権原の設定に、抵当権実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
これは、平成17年判決が、適法に占有する者に対してでも、上記の客観的要件に加え「その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ」る場合には、明渡しを肯定している判示に基づきます。抵当権侵害の主観的要件です。

具体的には、
  • ⑧-1  高額の敷金
  • ⑧-2  賃料が低額であること
  • ⑧-3  占有者と設定者(所有者)が密接な関係を有すること
  • ⑧-4  賃借権の登記が経由されていること(民法605条)
などが主観的要件をあらわす事実(評価根拠事実)となるでしょう。主観的要件は規範的要件と考えられますので、あてはめが大事です。

⑧-1高額の敷金が主観的要件を根拠づける事実といえるのは、賃貸人が交代する場合、敷金が承継されるという扱いとなっているからです(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁。敷金についてはこちらを参照)。抵当不動産の取得者は新賃貸人の地位に立たされますので、敷金返還義務を負うことになります。ですから、敷金が高額であることは、買受人が購入を躊躇する事情となるのです。

⑧-2が主観的要件を根拠づける事実となるのは、賃料が低額であることで毎月の支払い負担が小さくなるので、占有継続が容易であるからです。

⑧-3が主観的要件を根拠づける事実となるのは、競売によって設定者は所有権を失いますから(民事執行法188条・79条参照)、競売を阻止するために誰かに占有させる動機が存在するからです。そのようにするには知り合いの誰かに占有を依頼することになるでしょう。

⑧-4が主観的要件を根拠づける事実となるのは、通常、民法605条に基づく賃借権の登記はなされないからです。登記すると賃借人の立場が強力になるからです。賃貸人としては登記したくないのです(この登記を経ないでも賃借人に対抗力を与えるために、借地借家法10条1項・31条1項が存在します)。

Yの再々反論


⑧主観的要件が規範的要件なので、Yとしては、
  • ⑨  競売手続を妨害する目的が存在しないことを基礎づける事実(評価障害事実)
を主張します。例えば、
  • ⑨-1  敷金が実際に授受されていること
  • ⑨-2  賃料が低額なのは理由があること(生活苦など)
などが考えられるでしょうか。

余談

明渡請求なのに物権的請求権の性質を抵当権に基づく『返還』請求としないのは、民法369条が明示しているように、抵当権は占有権限を有しない担保物権ですから占有が奪われることが観念できないからです。だからこそ、客観的要件(抵当権侵害)が優先弁済請求権行使が妨げられていることとされるわけです。

2013年7月31日

推定される無過失、推定されない無過失

即時取得(民法192条)の無過失は推定されますが、取得時効(短期。民法162条2項)の無過失は推定されません。

なぜでしょうか?

2013年7月30日

なんで「担保的構成」なの?

所有権的構成と担保的構成。非典型担保の法的構成です。民法や破産法の教科書なんかを読んでいると担保的構成の方が人気のように思えます。

非典型担保のひとつ所有権留保。その名前にもかかわらず、法的構成を所有権的構成とするか、担保的構成とするか解釈の余地があります。

2013年7月29日

【差押と相殺】 昭和45年大法廷判決

前回の続きです。最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁(昭和45年判決)の読み方について。

事例

A会社は、500万円の国税を滞納しているが、Y会社に対して売掛金債権600万円を有している。

Y社は、Aに対して650万円の貸金債権を有している(Yが貸金債権を取得したのは、Xの差押え以前)。

X(国)は、国税債権を回収するため、2013年5月7日に、AのYに対する売掛金債権を差し押さえた。

AのYに対する売掛金債権の弁済期は同年6月10日であり、YのAに対する貸金債権の弁済期は同年12月10日である。

現在は、同年12月20日とする。

1  XのYに対する請求を立てなさい(前回)。

2  Yのなしうる反論を論じなさい(前回)。

3  Xの請求が認められるか、Yの反論に対するXの再反論を考慮しながら述べなさい(今回)。

2013年7月28日

【差押と相殺】 請求と反論、制限説のいいたいこと

制限説と無制限説の対立で有名です。S45年判例については次回。今回は何が問題となるのかというお話。

事例

A会社は、500万円の国税を滞納しているが、Y会社に対して売掛金債権600万円を有している。

Y社は、Aに対して650万円の貸金債権を有している(Yが貸金債権を取得したのは、Xの差押え以前)。

X(国)は、国税債権を回収するため、2013年5月7日に、AのYに対する売掛金債権を差し押さえた。

AのYに対する売掛金債権の弁済期は同年6月10日であり、YのAに対する貸金債権の弁済期は同年12月10日である。

現在は、同年12月20日とする。

1  XのYに対する請求を立てなさい。

2  Yのなしうる反論を論じなさい。

3  Xの請求が認められるか、Yの反論に対するXの再反論を考慮しながら述べなさい(次回)。

2013年7月26日

民法116条ただし書の「第三者」

この「第三者」、よく分かりません。マイナーですし。初めて川井先生の教科書を読んだ時にわからなかったのはもちろんですが、今読みかえしてもよくわかりません。どんな時に適用されるのか、何を予定している条文なのか。今日はこれを考えてみます。

2013年7月25日

はじめに

Y2です。

「これは!」と思ったことを綴っていきます。備忘録です。今までは疑問に思ったことをその辺のチラシの裏に書いて保存してきましたが、これからはwebに保存することにします。検索しやすいし閲覧しやすいからです。ですので基本的にはチラシの裏です。「誰かのため」になればうれしいですけれども、「誰かのため」に書くと背伸びして疲れちゃうので、自分の書きたいように書きます。

ゆえにこのブログ「Yの反論」は、Y2によるチラシの裏を公開するものです。

以上です。