2013年8月31日

将来給付の訴え。請求適格論のこと。

大阪国際空港事件判決(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)は、継続的不法行為により将来発生する損害賠償の訴えが許される要件を判示しました。その要件は、

  • ①請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が現に存在し、その継続が予測されること
  • ②右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られること
  • ③これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないこと
の3点です。

将来給付の訴えは、法文上は「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」認められます(民事訴訟法135条)。この文言からすると、上記①の要件が要求されることは理解できます。しかし、②や、③の要件を要求した理由はイマイチわかりません。

今回はこの点を考えます。

2013年8月22日

共有物を目的とする賃貸借の解除。民法544条1項か、252条か?

共有者が共有物を目的とする賃貸借契約を解除することは、民法252条本文の「管理に関する事項」にあたるとされました(最判S39年2月25日民集18巻2号329頁)。

他方、民法544条には、解除の不可分性が規定されています。「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から……のみすることができる」とされています。

どうして、共有物を目的とする賃貸借の解除には、民法544条が適用されないのでしょう?この判決は、民法544条を無視してるのではないか?・・・疑問です。今日はこれを考えます。

2013年8月13日

【不動産譲渡担保】法的構成の違いが意味すること

「判例で書いてもいいんですか?」「何説をとるべきですか?」

このように思ったことがあると思います。誰かが口にするのを聞いたことがあるかもしれません。

ですが、自分がどのような考え方に立脚しようと、それだけで答案の評価は変わりません。学説の優劣を論じることが評価の主眼ではないのです。学説の優劣をつけるのは、学者の先生方が報酬をもらってする仕事です。自分がよって立つ考え方から論理的に表現できるかどうか、が答案の評価の分かれ目です。

不動産譲渡担保が問題となる事例で、所有権的構成と担保的構成のそれぞれの説に立ったときに、どのように論じていくのかを考えます。

事例

Aは、Bから、返済期限を2年後、利息を月1.2%として、1000万円を借りた。

Aは、Bの上記貸金債権を担保するため、自己所有の甲土地および乙建物をBに譲渡する契約を結び、直ちにそれぞれに関して所有権移転登記を経由した(不動産譲渡担保設定契約)。

この譲渡担保設定契約では、①AからBへの支払・返済が滞らない限り、Aはなお甲土地および乙建物を占有・使用できること、②Aが完済すれば、Bは甲土地・乙建物の所有権移転登記の抹消に協力すること、③Aの返済が滞った場合には、Bは直ちに甲土地・乙建物の所有権をもってAに対する全債権の満足に充てることができることが約定された。

その後、Aは完済した。

しかし、資金繰りに困ったBが、約束に反して、甲土地および乙建物をCに売却し、登記も移転してしまった。

Aは、Cに対してその登記の抹消を請求した。この請求は認められるか。

2013年8月7日

物上代位③ 「民法304条1項ただし書の差押えの趣旨」と「『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨」

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

先取特権の物上代位についての解説はこちら

抵当権の物上代位についての解説はこちら

物上代位② 抵当権に基づく物上代位(『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨)

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

抵当権に基づく物上代位について考えます。

先取特権に基づく物上代位(民法304条1項ただし書の差押えの趣旨)はこちら

設問


Xは、Aに対して30億円の貸金債権を持っていた。Aは、4月2日、それを担保するためにA所有の甲不動産に抵当権を設定し、登記も経由した。

Aは、Yに対して甲を賃貸していた。

Aは、Bからも融資を受け、その担保として、5月2日、Yに対する将来の賃料債権を譲渡し、Yの確定日付ある承諾を得た。

AがXへの返済を履行しないため、Xは、6月2日、抵当権に基づく物上代位の行使として、AのYに対する賃料債権を差し押え、差押命令を得て、賃料債権の取り立てを請求した。

Xの請求は認められるか。Yの反論も考慮して考えよ。

物上代位① 先取特権に基づく物上代位(民法304条1項ただし書の差押えの趣旨)

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

設問で考えます。

Xは、Aに対して、乙動産を代金1000万円で売った。

Aは、Yに対して、乙動産を代金1200万円で転売し、引渡した。

Aは、Bから融資を受け、その担保として、5月2日、Yに対する乙の転売債権を譲渡し、Yの確定日付ある承諾を得た。

AがXへの売買代金を支払わないため、Xは、6月2日、先取特権に基づく物上代位の行使として、AのYに対する転売代金債権を差し押え、差押命令を得て、賃料債権の取り立てを請求した。

Xの請求は認められるか。Yの反論も考慮して考えよ。

2013年8月2日

抵当権に基づく妨害排除請求の要件事実(的検討)

抵当権に基づく妨害排除請求権について。

抵当権は「占有を移転しないで」設定される担保物権です(民法369条)。ですので、不動産の占有権原がない抵当権者は、不動産の明渡請求をすることはできないのが道理です。なので、平成3年判決(最判平成3年3月22日民集45巻3号268頁)は、それを否定しました。

ですが、そうは言っていられない場合もあります。平成11年判決(最大判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁)は不法占有者に対する明渡しを肯定しましたし、平成17年判決(最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁)では適法占有者に対する明渡しも肯定しました。

この3判例を前提に、抵当権に基づく妨害排除請求がなされる際の主張反論事項をまとめます。判例解説は百選Ⅰ88事件(田高寛貴)参照。

事例


Xは、Aに対して10億円の貸金債権を持っている。Aは、2010年、この貸金債権を担保するため、自己の所有する甲建物に抵当権を設定し、登記を経由した。

Aは、Yに対し、2011年、賃料月額50万円(適正賃料は600万円)、期間5年、敷金1億円で甲建物を賃貸した。

2012年、Aは支払不能となったため、Xは、甲建物の抵当権の実行として競売を申し立てた。しかし、買受人は現れず売却できなかった。

検討


主張されるべき事実は赤字にします。Xが、Yに対して、抵当権に基づく妨害排除請求権として、甲建物の明渡しを請求することを考えます。

Xの主張(請求原因事実)


「抵当権に基づく」請求ですから、Xが抵当権を持っていることを表さなければなりません。また、抵当権は金銭債権を担保するための物権ですから、被担保債権が存在していること前提となります。さらに、抵当権設定契約は物権行為ですから、設定者に処分権があることが必要です。そうすると、抵当権の発生原因事実として、
  • ①  被担保債権の発生原因事実
  • ②  抵当権設定契約
  • ③  抵当権設定者がこの不動産を所有していること
をXが主張します。

「妨害排除請求」ですから、妨害されている事実=抵当権侵害を主張する必要があります。この点で参考にするべきなのが平成11年判決です。同判決は抵当権に対する侵害について、
第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。
と判示しています。これを前提にすると、抵当権侵害があることを摘示するためには、
  • ④  占有
  • ⑤  ④により、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
をXが主張します(抵当権侵害を示す客観的要件)。客観的要件を示す事実は、例えば、
  • ⑤-1  売却価額が下落したこと
  • ⑤-2  競売手続きが進行しないこと
などが考えられます。

さらに、Xが、設定者であるAへの明渡しではなく、自己への明渡しを請求することを正当化するために、
  • ⑥  抵当不動産の所有者において、抵当権侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないこと
を主張します。平成17年判決が、
抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである
と判示しているからです。

Yの反論


Yは、甲建物の占有が適法であることを示します。占有権原の抗弁です。
  • ⑦  A・Y間で甲建物の賃貸借契約が締結されたこと(+基づく引渡)
をYが主張します。

Xの再反論


これに対して、Xは、次のように再反論します。
  • ⑧  占有権原の設定に、抵当権実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
これは、平成17年判決が、適法に占有する者に対してでも、上記の客観的要件に加え「その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ」る場合には、明渡しを肯定している判示に基づきます。抵当権侵害の主観的要件です。

具体的には、
  • ⑧-1  高額の敷金
  • ⑧-2  賃料が低額であること
  • ⑧-3  占有者と設定者(所有者)が密接な関係を有すること
  • ⑧-4  賃借権の登記が経由されていること(民法605条)
などが主観的要件をあらわす事実(評価根拠事実)となるでしょう。主観的要件は規範的要件と考えられますので、あてはめが大事です。

⑧-1高額の敷金が主観的要件を根拠づける事実といえるのは、賃貸人が交代する場合、敷金が承継されるという扱いとなっているからです(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁。敷金についてはこちらを参照)。抵当不動産の取得者は新賃貸人の地位に立たされますので、敷金返還義務を負うことになります。ですから、敷金が高額であることは、買受人が購入を躊躇する事情となるのです。

⑧-2が主観的要件を根拠づける事実となるのは、賃料が低額であることで毎月の支払い負担が小さくなるので、占有継続が容易であるからです。

⑧-3が主観的要件を根拠づける事実となるのは、競売によって設定者は所有権を失いますから(民事執行法188条・79条参照)、競売を阻止するために誰かに占有させる動機が存在するからです。そのようにするには知り合いの誰かに占有を依頼することになるでしょう。

⑧-4が主観的要件を根拠づける事実となるのは、通常、民法605条に基づく賃借権の登記はなされないからです。登記すると賃借人の立場が強力になるからです。賃貸人としては登記したくないのです(この登記を経ないでも賃借人に対抗力を与えるために、借地借家法10条1項・31条1項が存在します)。

Yの再々反論


⑧主観的要件が規範的要件なので、Yとしては、
  • ⑨  競売手続を妨害する目的が存在しないことを基礎づける事実(評価障害事実)
を主張します。例えば、
  • ⑨-1  敷金が実際に授受されていること
  • ⑨-2  賃料が低額なのは理由があること(生活苦など)
などが考えられるでしょうか。

余談

明渡請求なのに物権的請求権の性質を抵当権に基づく『返還』請求としないのは、民法369条が明示しているように、抵当権は占有権限を有しない担保物権ですから占有が奪われることが観念できないからです。だからこそ、客観的要件(抵当権侵害)が優先弁済請求権行使が妨げられていることとされるわけです。