2013年11月16日

無権利の法理

無権利の法理とは、「誰であっても、自らの有している権利以上の権利を譲り渡すことはできない」という、ローマ法以来の原則です。

通謀虚偽表示に対して第三者が民法94条2項で保護される趣旨を論じるときとか、○○と登記で(形式的には)第三者が不動産を取得できないことを根拠づける際に使います。

「無権利の法理」なんてイカツク呼ぶからムツカシク感じてしまいますが、全然そんなことはないのです。無いものは売れないという、ただそれだけのことを言っているだけです。当然のことに名前が付いているだけです。

以上です。以下、蛇足。

注意①


「無い袖は振れない」ことを(半ば正当化するために)無権利の法理を使うことは明らかな誤用です。法的には、金銭債務の履行不能は観念できないからです。民法419条3項参照。というか、無権利の法理は権利の承継を観念できない場合に使うものと考えた方がよいです。

注意②


「他人物売買は無権利の法理の例外である」というのも勘違いです。自分は持っていないけれども、他人が持っている物を売買の目的とすることも許されます。他人物売買による権利移転を、売主をすっ飛ばして、

他人→買主

というように観念すれば、売主には一度も権利が帰属していませんから、たしかに無権利の法理の例外っぽくなります。これは、代理によって売買がなされた場合に限りなく近くなります(というか、代理そのものです)。第三者のためにする契約(民法537条)っぽくも見えます。ですが、その他人が契約当事者にならない点で代理や第三者のためにする契約とは異なりますから、権利移転をこのように観念することはできません。

他人物売買の売主の財産権移転義務(民法555条)は、民法560条にあるように、「その権利を取得して買主に移転する義務」です。具体的に言うと、売主がその他人から仕入れて、その仕入れたものを買主に渡すという義務です。権利移転の形式は、

他人→(売買㋐)→売主→(売買㋑)→買主

となります。売買㋐の前に売買㋑がなされることがままありますが、その場合、売買㋐によって売主が権利を取得すると同時に買主に移転することになります。つまり、売主を経由して権利が移転するので、これを無権利の法理の例外と呼ぶことはできないことになります。

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