検証とは五官の作用によって対象を観察し認識することであり、強制処分として行うことが予定されています(刑訴法218条、220条)。この結果を書面にしたものが検証調書であり、刑訴法321条3項で伝聞例外として証拠能力を付与されます。
が、検証を受ける側が承諾すればわざわざ令状を取ってやる必要はないので、任意でも行われます。任意処分として行う検証を実況見分といい、その結果を記載した書面を実況見分調書といいます。捜査官が見て・聞いて・触って・嗅いで・舐めて分かったことを書面に記録したものです。
裁判官は実況見分の現場にはいないでしょうから、実況見分の結果は伝聞で報告されたにすぎません。実況見分調書は、公判期日における供述に代わる書面であり、供述内容(書面の内容)の真実性を立証するために証拠として提出されるものであるので、裁判官にとっては伝聞証拠です。
この実況見分調書の内容が犯行状況や被害状況を再現したものであるとき、被告人や被害者の説明、実況見分現場での供述が含まれることがあります。そうなると単なる検証の結果を記載した書面ではないので、伝聞例外としていかなる要件のもと証拠能力を付与できるかが問題になります。
これについて判示したのが最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁(H17決定。
百選86事件)です。今回はこの判例を検討します。
検討の流れは、
- 実況見分調書が伝聞証拠であることの確認
- 要証事実は何か(「再現状況」ではなく、「再現通りの犯罪事実の存在」だ)
- 再現者の供述は現場指示か現場供述か(現場供述だ)
- 刑訴法326条の同意はあるか(ない)
- 実況見分調書自体に証拠能力を与えることができるか(刑訴法321条3項の要件検討)、再現者の供述に証拠能力を与えることができるか(321条1項3号 or 322条1項の要件検討)
となります。