2013年11月5日

即時取得の「占有」。どうして指図による占有移転はイイのに、占有改定はダメなのか

民法192条の「占有」というためには、「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有」でなければならないとされています(最判S35年2月11日民集14巻2号11頁)。だから、占有改定では即時取得は肯定できないけれども、指図による占有移転ならば肯定できるとされています。


「何が『だから』だよ!説明になってないよ!大体、指図による占有移転も占有改定も自分以外の誰かが占有しているのだから、外観上の違いはないじゃないか!どちらも条文上は『代理人』が占有していることとなっているだろう!」というお怒りの声にも似た疑問をもつ方もいると思われます。

その疑問はもっともです。ですが、やはり、指図による占有移転と占有改定では違うのです。この部分を考えてみます。

即時取得の制度


即時取得による権利取得は原始取得です。「これ、おれのですよ」という占有(外観)を呈している無権利者から「取引行為によって」動産を占有したことによって、権利取得を認める制度ですから、承継取得はあり得ません。逆に、「これ、おれのですよ」という部分が真実なら、その取引は、通常の売買です。真の権利者からの取引による権利取得=承継取得が肯定されます。

このように、即時取得は、外観を信頼した第三者を保護する制度です。公信の原則のあらわれです。他方、物権には一物一権主義が妥当しますから、第三者の即時取得による所有権取得が肯定されると、原権利者の所有権は消滅します。

以上からすると、即時取得は、真の権利者を犠牲にして本来的には無権利である者を保護しようとする制度であるといえます。

このような観点からすれば、権利を喪失する原所有者と善意取得者の利益を考量し、善意取得者の利益の方が大きいと判断されることが必要となるでしょう。この考量判断を媒介するのが、民法192条の「占有」という要件であるといえます。すなわち、取得者の占有移転の形態が所有権を原所有者から奪うのにふさわしいものでなければならないのです。

以上を踏まえて、指図による占有移転と占有改定のそれぞれが、「取得者の占有移転の形態が所有権を原所有者から奪うのにふさわしいもの」といえるかどうかを検討します。

指図による占有移転の場合

指図による占有移転というのは、民法184条によると、「代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する」というものです。

たとえば、AがBに楽器を寄託していたとします。このときAがBに対して、「楽器はCに売ったから、これ以降はCのために寄託してくれ」と依頼し、Aが買主のCにもその旨連絡して、Cが「委細承知した。楽器は寄託業者のBから受け取る」と承諾したとします。民法184条にあてはめると、Aが「本人」、Bが「代理人」、Cが「第三者」となり、「(A)が(B)に対して以後(C)のためにその(楽器)を占有することを命じ、(C)がこれを承諾したときは、(C)は、占有権を取得する」ことになります。

(「承諾」するのは、寄託業者のBではなく、買主のCであることに注意)

このようにして買主のCが占有を取得すると、売主のAは占有を喪失します。民法184条は「以後第三者のために占有をすることを命じ」と定めており、「以後(本人と)第三者のために占有することを命じ」とは定めていないからです。というか、売主のAが占有を喪失し、Cが代わりに占有を取得する形態が指図による占有移転というべきだからです。

楽器の保管場所自体はBのままで変わりはなくても、その占有主体はAからCに変わりました。当事者以外の人が「この楽器を占有しているのは誰ですか?」とBに尋ねれば、「(Aではなく)Cです」と答えるはずです。

以上からすると、指図による占有移転による占有取得は、「所有権を原所有者から奪うのにふさわしいもの」と言っていいのではないでしょうか。

なお、事例問題になるとしたら、「売主Aは実は楽器の所有者ではなく、Xが真の所有者で、AはXから賃貸していたにすなかった、XはCに対して楽器の返還を請求した」といった感じでしょうか。


占有改定の場合

占有改定とは、民法183条による占有取得の方法で、「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する」というものです。

金銭消費貸借の担保として譲渡担保を設定する際によく利用されます。譲渡担保の設定場面を例にとって考えます。

工場を経営するAがBから融資を受ける際に、土地や工場はすでに抵当に入っていて担保にできないため工場内にある機械を担保にしようとする場合、質権を設定するか、譲渡担保にするかの2つがあります。質権を設定するには「債権者に目的物を引き渡す」ことが必要ですが(民法344条)、質権設定者の代理占有が禁止されているため(民法345条)、Bが機械を受け取る必要があります。ですが、Bが機械を受け取っても意味はなく、逆に、Aの操業に支障を来すので、質権設定によって担保をとるのはうまみがありません。この不都合を回避するために、譲渡担保が考案されました。工場内の機械について、Aを売主、Bを買主とする売買という形式をとり、担保のために機械の所有権を貸主Bが有するのです。別に、売買の後もAが機械を利用することに支障はありません。ですが、譲渡担保も非典型担保であり物権ですから、対抗要件を備えないと第三者に対抗できません。占有改定は民法178条の「引渡し」に含まれますから、譲渡担保の対抗要件として、占有改定が利用されるわけです。

占有改定は「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示した」ことによるものですが、この意思表示は、譲渡担保の設定の意思表示で兼ねることができます。

そうすると、Aが、B以外のCからも金融を得ようとする場合に、同様に機械に譲渡担保を設定するという事態が起こり得ます。物の二重譲渡が許容されており、抵当権が重ねて設定できることからすれば、譲渡担保を重ねて設定することも許容されます。そして、Cが占有改定によって対抗要件を取得しても、Bの対抗要件のための占有は消滅しません。占有改定による占有権の取得は「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示」するだけでよいのですから。同一債権が複数人に対して譲渡された場合、債権の譲受人それぞれが対抗要件を具備できるのと同じです(民法467条)。すなわち、Cが占有を取得したとしても、Bは占有を喪失しません

このように、占有改定においては、機械を直接占有するのがAであるという外観が変わらないばかりか、Bの占有改定による占有と共に、Cの占有改定による占有も肯定されます。機械を直接占有するAに「この機会を占有するのは誰ですか」と尋ねた場合(そもそも、A以外に占有主体がいることを観念するのは無理な注文のように思えますが)、Aであり、Bでもあり、Cでもあると答えるでしょう。これでは、占有取得が軽すぎて、とても「取得者の占有移転の形態が所有権を原所有者から奪うのにふさわしいもの」とはいえないでしょう。

まとめ


そんなこんなで、指図による占有移転ならば「取得者の占有移転の形態が所有権を原所有者から奪うのにふさわしいもの」ということができるから即時取得が肯定され、占有改定による占有取得では「取得者の占有移転の形態が所有権を原所有者から奪うのにふさわしいもの」ということができないので、即時取得が否定されると考えられる次第です。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

すっきりとイーメジできました。・・・と思います。

匿名 さんのコメント...

なるほど!!