2013年11月20日

要件とは何なのか。

法律要件とか、構成要件とか、要件事実とか呼ばれたりします。法律を勉強することの大部分は、この「要件」というものを探求する作業と言えるでしょう。

この、「要件」というものについて、言いたいことを伝えるために何をどの程度記述すればよいか非常に悩ましいのですけれども、せっかちな性分ですので先に結論から申し上げます。

要件とは、


  • 効果を発生させるために必要なもの(代償、条件)
  • 背後に控えている哲学、制度趣旨、法的概念などが可視化されたもの

です。

要件とは、「効果を発生させるために必要なもの(代償・条件)」である


要件の具体具体例としては、不法行為に基づく損害賠償請求権に対する故意過失・権利侵害・損害の発生・因果関係(民法709条)、殺人罪の刑に対する人を殺したこと(刑法199条)、基本的人権が認められることに対する国民であること(cf.憲法11条、13条)、無効確認訴訟における処分が無効であることに対する処分の瑕疵の重大明白性、役員等の会社に対する損害賠償責任に対する任務懈怠(会社法423条)、私文書が真正に成立したものと推定されることに対する本人の署名・押印(民訴法228条4項)、伝聞法則における伝聞証拠(刑訴法320条)、などがあります。

対して、損害賠償請求権、殺人罪による死刑、基本的人権があること、行政処分が無効であること、会社に対する損害賠償責任、私文書が真正に成立したと推定されること、伝聞法則によって証拠能力が認められないこと、これらが効果です。

例えば、権利侵害が行われ、その権利侵害が誰かの故意や過失に基づいており、権利侵害によって損害が発生し、故意・過失と権利侵害と損害の発生には因果関係が認められることにより(要件)、損害賠償債権が発生します(効果)。


このように、損害賠償債権という金銭的価値のある債権が発生するためには、それ相応の理由が必要なのです。宝くじを買ってもいないのに3億円の金銭を得られることがないのと同じことです。これが、「要件とは効果を発生させるために必要なもの(代償、条件)である」、ということの意味です。

効果には、発生しやすいものと発生しにくいものがあります。

権利能力という効果を得るためには、「出生」したことが必要で、これが要件です(民法3条1項)。人としてこの世に生まれるだけで、権利能力があることが認められます。これは、発生しやすい効果の例といえるでしょう。

逆に、時効による所有権の取得は、発生しにくい効果といえます。悪意による場合、20年間の占有を続けなければならないですし、その占有には所有の意思が必要で、占有態様にもいろいろと注文が付けられています。

これも「要件とは効果を発生させるために必要なもの(代償、条件)である」ことのあらわれです。「効果は要件にはね返る」という法諺で言われたりします。発生する効果の重大性に比例して、要求されるものが大きくなっていくのです。

発生しにくい効果の最たるものと言えば、刑罰権です。刑罰権の発生により、自由を奪われたり(懲役刑や禁錮刑)、生命が奪われる(死刑)からです。ゆえに刑罰権発生のための要件は他人の生命・自由・財産を侵害したことといった重大なものが要求されます。


要件とは「背後に控えている哲学、制度趣旨、法的概念などが可視化されたもの」である


憲法上の権利=基本的人権は、権利であり、効果といえます。自由権として認められると正当な理由がない限り国家権力からの干渉を排除できるという強力な効果が認められます。「効果は要件にはね返る」ことからすれば、強力な効果には相応の要件が要求されます。ですが、教科書等で、基本的人権が発生するための要件とは何かが明示的に論じられることはあまりありません。なぜなら、人権は「国民」であることのみをもって保障されるものであって(憲法11条参照)、その要件は「国民」であることのみであるからです。あまりに自明で、あまりに簡素な要件なのです(このことが問題とされるのは、通常は人権の享有主体とならないと(も)考えられる外国人や会社等の法人など、例外的場合です)。「国民」であれば、それだけで、強力な効果を有する人権が認められます。

これは、「憲法は、人権を保障するために、権力を拘束するための規制を定めたものである」という立憲主義の思想によるものといえます。これまでの歴史を背景にして、「個人として尊重される」国民は、そのことだけで基本的人権を享有する、選挙権を有するために男であることや、一定額の納税をしていることは要件とならない、といった哲学が形成されました。これに基づき、人権を享有するための要件が、その効果の重大さにもかかわらず、「国民」であることのみとなっているのです。背後に控えている哲学が可視化された例と言えます。

制度趣旨法的概念が可視化された例としては、即時取得(民法192条)や通謀虚偽表示に対する第三者(民法94条2項)などが権利外観法理に基づいていることをあげることができます。

制度趣旨・法的概念から要件が抽出されたものは、長い年月を経て社会を法的に観察してきた結果ともいえます。

たとえば不法行為の故意過失・権利侵害・損害の発生・因果関係という要件は、現在では不法行為というラベルが貼られる一連の現象から、因数分解的に必須の要素を括りだし、抽象化したものです。

趣旨が大事と言われたり、歴史的な背景が強調されたりするのは、こういった背景があるからです。

以上です。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

色んな本や講師達が´趣旨を理解することが大事だ、、と書いたり言ってたりして今までチンぷんカンプンでモヤモヤしてた。でもやっと霧が晴れた。・・・ような気になってるwatasi。