2013年8月31日

将来給付の訴え。請求適格論のこと。

大阪国際空港事件判決(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)は、継続的不法行為により将来発生する損害賠償の訴えが許される要件を判示しました。その要件は、

  • ①請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が現に存在し、その継続が予測されること
  • ②右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られること
  • ③これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないこと
の3点です。

将来給付の訴えは、法文上は「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」認められます(民事訴訟法135条)。この文言からすると、上記①の要件が要求されることは理解できます。しかし、②や、③の要件を要求した理由はイマイチわかりません。

今回はこの点を考えます。

①「将来の請求権の基礎となるべき事実関係・法律関係がすでに存在し、その継続が予測されること」の要件について


通常、給付訴訟は、口頭弁論終結時に給付請求権が現存する、現在給付の訴えを原則とします。なのに、民事訴訟法135条が将来給付の訴えを例外的に認めているのは、将来に給付請求権をめぐる争いが生ずる蓋然性が高い場合には、当事者間の公平の観点からして、原告に事前の対応策を認めてもイイよね(そのうちケンカになるなら、もう今やっちゃえば?)、という理由からです。

この趣旨から、①の要件が要求されます。

②「請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られること」の要件について

①要件の存在を前提とすると、将来のある時点で請求権が存在する可能性は高いと考えられます。

ですが、将来給付の訴えは、現時点(口頭弁論終結時)に存在していない請求権を問題とするものですから、将来の時点では、請求権が存在しない可能性は当然あるわけです。

債務者にとって、実はありませんでした、という場合が予測できるなら、「じゃあ、こういう場合は請求異議の訴えを提起して、なんとか対処できるね!」と対応策を想定できるわけです。この点は③要件にも絡んできます。

将来給付の訴えは、条件付請求権に似ています。②要件は、債務者にとって、その停止条件の未成就 or 解除条件の成就が予測できる事由であることを要求するものといえます。

③「これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないこと」の要件について


「請求異議の訴えの起訴責任を債務者に転換しても不当でないこと」とも表現されます。

将来給付の訴えが認められた場合、原告としては、その判決を債務名義として、強制執行することによって権利を実現します。

ですが、法律関係はその事実関係によって変動します。今はあるとされる権利も、債務が履行されたり、消滅時効にかかったり、権利の根拠となる事実が消滅することで、将来の時点ではないとされることがよくあります。

将来給付の訴えが認められた場合で考えてみます。将来給付の訴えを審理していた時点で、「将来のある時点で請求権が存在しているな」と考えられるなら、請求は認容されます。しかし、その予測が外れた場合、「将来のある時点」で請求権が発生していなかった場合、どうなるでしょう? 権利がないのなら、給付を求めることはできません。ですが、将来給付の訴えを認めた判決がありますから、原告は債務名義を持っています。

強制執行は、債務名義に基づいて行われます(民事執行法22条)。これは、債務名義さえあれば、実体的な権利の有無に関わらずに、強制執行を申し立てることができる、ということを意味しています(債務名義は、権利の判定機関と執行機関を分離するという必要から創造された制度であります)。

権利がないのに、強制執行される債務者はたまったもんじゃありません。そこで、強制執行をやめてくれ、と主張できる機会を債務者に与えた方がよいということになりました。債権者が債務名義を基礎づける権利関係があることを証明するために判決手続の開始手続をしましたから、今度は債務者が債務名義を基礎づける権利関係がないことを求める手続の開始の手間を負担してくれ、というものです。これが請求異議の訴えです(民事執行法35条)。

あらためて考えてみます。普通、金銭の支払や物の引渡しを求めるときは、請求権があると考える方が裁判を開始します。債権者が裁判という場を設定して、債務者にご足労頂いて、裁判所に「権利あるよ」とお墨付きをもらうために頑張るわけです。債権者は、現在給付の訴えを提起して、請求権が現在(口頭弁論終結時)に存在することを証明して、認容判決をもらうわけです。これで、債権者は晴れて強制執行できます。

これが通常です。

でも、将来給付の訴えが認容された場合、上でも書いたように、将来の時点で、請求権が存在しないこともあります。この場合、債務者が、請求異議の訴えを提起して、請求権が現在(口頭弁論終結時)に存在しないことを証明して、強制執行を許さないという判決をもらうわけです。

訴えを提起するのが債務者になっています。普通、給付を求めるのは債権者ですから、請求権が存在しないなら、債権者が提起した裁判で請求棄却の判決が出ておわり、です。それなのに、将来給付の訴えが認容されて債務名義があることによって、わざわざ債務者が請求異議の訴えを提起しないといけないことになってしまいます。

このように、将来給付の訴えを認容すると、債権者にとっては、あらかじめ債務名義を得ていつでも強制執行できるという利益が与えられますが、債務者にとっては、不当な執行がされるおそれがあり、その排除のために提訴負担を負わされることになります。

だから、③要件で、債権者(原告)と債務者(被告)の利益衡量をしましょう、とされたわけです。

まとめ


①②③の要件を備えた将来給付の訴えに限って、「あらかじめその請求をする必要がある」こと=将来給付の訴えの利益が肯定されます。

つまり、裁判所は、上記要件を充たす将来給付の訴えに限り、本案判決を受ける資格がある(請求適格がある)と考えているようです。

これが、請求適格論と呼ばれるものです。Law Practice民事訴訟法61頁以下が分かりやすいです。

1 件のコメント:

一个喜欢肉另一个不吃肉 さんのコメント...

②③がわかりづらかったのですが、このブログが参考になりました。ありがとうございました。