2013年8月13日

【不動産譲渡担保】法的構成の違いが意味すること

「判例で書いてもいいんですか?」「何説をとるべきですか?」

このように思ったことがあると思います。誰かが口にするのを聞いたことがあるかもしれません。

ですが、自分がどのような考え方に立脚しようと、それだけで答案の評価は変わりません。学説の優劣を論じることが評価の主眼ではないのです。学説の優劣をつけるのは、学者の先生方が報酬をもらってする仕事です。自分がよって立つ考え方から論理的に表現できるかどうか、が答案の評価の分かれ目です。

不動産譲渡担保が問題となる事例で、所有権的構成と担保的構成のそれぞれの説に立ったときに、どのように論じていくのかを考えます。

事例

Aは、Bから、返済期限を2年後、利息を月1.2%として、1000万円を借りた。

Aは、Bの上記貸金債権を担保するため、自己所有の甲土地および乙建物をBに譲渡する契約を結び、直ちにそれぞれに関して所有権移転登記を経由した(不動産譲渡担保設定契約)。

この譲渡担保設定契約では、①AからBへの支払・返済が滞らない限り、Aはなお甲土地および乙建物を占有・使用できること、②Aが完済すれば、Bは甲土地・乙建物の所有権移転登記の抹消に協力すること、③Aの返済が滞った場合には、Bは直ちに甲土地・乙建物の所有権をもってAに対する全債権の満足に充てることができることが約定された。

その後、Aは完済した。

しかし、資金繰りに困ったBが、約束に反して、甲土地および乙建物をCに売却し、登記も移転してしまった。

Aは、Cに対してその登記の抹消を請求した。この請求は認められるか。
Aの請求

A・C間には何の法律関係も存在しないので、Aの請求は所有権に基づく物権的請求権です。

Aにしてみれば、そもそも譲渡担保設定契約では完全な所有権は移転していなかったし、完済した時点でBに移転していた所有権は自分に復帰している、と考えます(A所有)。

それなのにCが登記名義を有していますから、CがAの所有権を占有以外の方法で侵害しています(C名義登記の存在)。

ですからAは、Cに対して、所有権に基づく妨害排除請求権として、所有権移転登記抹消登記手続を請求します。

所有権的構成の場合

この事例では完済しているから、Bの売却は譲渡担保の実行としてではないことに注意

Cの反論


譲渡担保の法的性質について所有権的構成を採った場合、A・B間で甲土地・乙建物に譲渡担保を設定したことで、その所有権はBに移転したこととなります。Aが完済したことでその所有権が復帰したとしても、その物権変動は、「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」ものです(民法177条)。つまり、AとCは、互いに対抗関係に立つ第三者となります。

そうすると、Cの反論としては、自分はAの登記欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(民177条)である、だからAが登記を具備するまでAを権利者と認めない、というものとなります。

判断

1  「第三者」?


Aが完済したことで甲土地・乙建物の所有権はAに復帰していますから、Bは無権利でした。何者も自分の持っていないものを譲り渡すことはできませんから、本来であれば、CはBから所有権を承継取得できません(無権利の法理)。

しかし、債務を完済したAは、完済した時に抹消登記手続をとることを要求することもできました。それに不動産物権変動の過程を忠実に公示するべきという不動産登記法の建前からすれば、そうす るべきだったのです。

Aはそれを怠っています。自分がなすべきことをしていないのに、「お前は無権利者だから、登記がなくても権利を対抗できるんだ」なんて主張するなんて、ムシがよすぎます。

だからCは、Aの登記欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」であると考えます。

2  背信的悪意者?


Cが物権変動を知っていて、かつ、登記欠缺を主張することが信義に反する事情があるならば、登記手続を怠ったAでも、例外的に、権利主張できます。

たとえば、Cが甲土地・乙建物をゲットするために、Aの抹消登記手続を邪魔したといった事情が考えられます。

担保的構成の場合

Cの反論


譲渡担保の法的性質について担保的構成をとると、A・B間で譲渡担保が設定されて、甲土地・乙建物の登記が移転されても、その所有権(の大部分)はAに残っていると考えます。Bにも移転しますが、移転するのは、担保目的のために制限された所有権です(使用・収益・処分のうち、処分=換価する権能だけ)。

このように解すると、Bには、登記もあるし、甲土地・乙建物を所有しているという外形があります(外観の存在)。

本問では明らかではありませんが、Cとしては、その外形を見て、当然、「Bが所有権を有している」と信じていたことでしょう(相手方の正当な信頼)。

この外形は、A・B間の譲渡担保設定契約によって生じたものですし、さらに、Aは抹消登記手続を怠っています(本人の帰責性)。

ですから、Cとしては、本事例には民法94条2項が類推適用され、自分は同項の「第三者」である、と反論します。

判断


こちらでも、原則として、Cは権利を取得できません(無権利の法理)

この原則を破ってでも保護するべきということが論証されるかどうかが、答案のハイライトとなります。

ポイントは、Aが抹消登記手続を怠っただけで本人の帰責性ありといえるかどうかでしょうか。

これを肯定しても、CがA・B間の譲渡担保設定契約の内容を知っており、A完済の事実を知っていたとすれば、「正当な信頼」要件を充たさなくなります。抹消登記手続を妨げたりした事情があればなおのことでしょう。

まとめ


法的構成が違うと論じる道筋が異なります。ですが、そこで拾っている事情は同じようなものです。だから結論も似てきます(キモとなるのは設定者と第三者の比較衡量ですね)。

学説の対立に蹂躙されることなく、考え方が違うと何が異なってくるのかを見極めたいものです。

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