2013年12月4日

権利外観法理と民法94条2項① 民法94条2項直接適用

民法94条2項は、「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」と定めます。「前項の規定による意思表示」とは「相手方と通じてした虚偽の意思表示」のことで(同1項)、つまり、通謀虚偽表示によって作出された外観が有効に存在すると信頼して法律関係に入った第三者は保護されることを表しています。このことを定める民法94条2項は、権利外観法理(単に外観法理と呼ばれたりもします)の表れといわれます。

権利外観法理とは、真実の実体関係とは異なる外観が存在し、その外観の作出に本人の帰責性が認められる場合、外観が存在することについて正当な信頼を寄せた第三者を保護するという制度です。

分析的にみると、権利外観法理は、①外観の存在、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼の3点を構成要素としています。

今回から3回にわたり、権利外観法理という観点から、民法94条2項が直接適用される場合、民法94条2項が類推適用される場合、民法94条2項と110条が類推適用される場合のそれぞれの要件を検討します。


民法94条2項直接適用


例えば、甲土地を有するXが、強制執行を免れるために甲土地を売ったことにして(虚偽表示)、その登記だけ知り合いのAに移転したとします。

余談。登記官は形式的な審査権限しか有さないので、虚偽表示の法律行為を原因とする場合であっても登記権利者と登記義務者が共同で申請すれば、移転登記をすることは可能です。不動産に対する強制執行は登記を目印に行われるので、実体関係の伴わない通謀虚偽表示によって登記が移転されると、Xの債権者は甲不動産を差押えることができません。

登記名義人となったAはフトコロ事情がさみしいので、登記があることを利用し、甲土地を転売してしまおうと思いつきました。ちょうどそこへ土地を探していたYが現れ、A「いい土地があるよ」、Y「ならば買おう」、A「よし売った」、Y「よし買った」、といった流れでYがAから甲土地を購入しました。登記も済ませました。

その後XはAから登記名義を戻してもらおうと思い立ちましたが、甲土地にはY名義の登記があります。ですので、XはAに対して所有権に基づく移転登記抹消登記手続を請求します。

X・A間の甲土地売買は虚偽の意思表示によるものですから、無効です(民法94条1項)。甲土地の所有権はXからAに移転していませんし、Aは甲土地の所有権を有していませんでした。何人も自己の有する以上の権利を譲り渡すことはできませんから、Aと甲土地の売買契約を締結したYは、甲土地の所有権を承継取得することはできません(無権利の法理)。形式的に考えると、YはXに勝てません。

ですが、この結論はあまりにもズルいです。だって、そもそも虚偽の外観を作り出したのは当のXです。あるときには「私のではありませんよ」的な顔をしておきながら、またあるときには「すまない、あれはウソだ。これは私のだ」とするのは、まったく世間をナメてます。世間をナメてるXと、虚偽の外観が真実だと信頼したY、どちらを優遇してやるべきかは明らかです。当然Yです。

以上のような利益衡量を経て、民法94条2項があるのです。これが民法94条2項の趣旨です。

民法94条2項直接適用の要件を整理すると、

  • ①通謀による虚偽の外観の存在(外観)
  • ②虚偽の外観を原権利者が作出したこと(本人の帰責性)
  • ③第三者が外観が虚偽だと知らないこと(第三者の正当な信頼)

となります。が、通謀による虚偽の外観が存在すれば同時に本人の帰責性も認められますから、厳密に①と②を区別しないことが多いです。


今日はここまで。次回は94条2項類推適用についてです。

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