2014年12月5日

「民法110条の趣旨を類推適用して」について

最判昭和44年12月18日民集23巻12号2476頁です(家族法百選(第7版)8事件)。
 
本題に行く前に、判決の論理を追います。まず民法761条について。
 
民法761条は夫婦相互に日常家事代理権を与えた規定とされます。もっとも民法761条は「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う」と定めますので、これ自体は日常家事債務について夫婦の連帯責任を定めたものにすぎません。が、判例は「右のような効果を生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である」と言っています。
次いで民法761条の「日常の家事」に関する法律行為の範囲について。
 
「日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すもの」です。ある法律行為が「日常の家事」に含まれるかは、民法761条の趣旨から次のように判断されます(通説)。民法761条が「日常の家事」に関する法律行為について夫婦双方に責任を負わせているのは、婚姻生活に必要な「日常の家事」に関する債務はその名義にかかわりなく夫婦が共同して負担するべきだと考えられること、および、法律行為の相手方としても、夫婦双方が債務を負担すると期待することが通常だと考えられることにあります。この民法761条の趣旨に照らすと、「日常の家事」に関する法律行為の範囲は、夫婦の内部事情や法律行為がなされた主観的目的をもとに当該法律行為が婚姻生活にとって必要かを判断するとともに、法律行為の相手方の信頼を保護するために、行為の種類・性質といった客観的事情を考慮して判断するべきとされています。
 
そして判例は、夫婦の一方が日常家事代理権の範囲を超えた行為をした場合では、民法110条の趣旨を類推適用して、「当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり」第三者が保護されるとしました。
 
本題。「民法110条の趣旨を類推適用して」とは何なのか。民法110条類推適用とは違うのか。
 
民法110条(類推適用も同じ)では、第三者の信頼の範囲はなされた行為の大きさに対応します。すなわち、「代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由のあるとき」に権限外行為の表見代理が成立するので、権限外行為に対応する代理権の大きさを第三者の信頼の対象範囲と扱います。
 
これに対して「民法110条の趣旨を類推適用」では、本判決が述べている通り、第三者の信頼の対象の大きさは「当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内」です。民法110条(類推適用)とは異なり、なされた行為に対応する権限のサイズではないのです。基準となるのは、法律行為に対応する代理権(権限外行為に相当する代理権)ではなく、あくまで「日常の家事」に関する代理権なのです。
 
信頼の対象となる権限の大きさは異なりますが、「正当な理由」があるときには第三者が保護されるという判断形式は同じなので、「民法110条の趣旨を類推適用して」なわけです。
 
そうすると、民法761条の「日常の家事」の範囲と、「民法110条の趣旨を類推適用して」第三者が保護される範囲は実質的には重なり合います。が、行為者が虚偽の使途・目的などを表明した事例などでは、民法110条の趣旨類推の枠組みで相手方が保護される可能性があるそうです(上記百選解説参照)。
 
以上です。

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