2015年12月18日

相殺の担保的機能?

相殺には担保的機能があるらしい。でも担保的機能って何なのでしょう。相殺についての定めは、民法399条~724条「第三編 債権編」の中の、399条~520条「第一章 総則」の中の、474条~520条「第五節 債権の消滅」にあります(505条~512条。「第二款 相殺」のところ)。規定の位置からは、債権の消滅原因の一つであるにすぎないように思えます。債権の一消滅原因にすぎないものに、何で担保的機能があるのでしょうか。

相殺の担保的機能を理解するには、債権執行という債権回収手段を通して考える必要があります。

債権執行による債権回収は、以下のようにして行います。

債務者Aが金銭債務を履行しないとき、債権者Xとしては債務者Aの財産を差押え、換価して回収することが制度として認められています。民事執行法がそれを定めます。

債務者Aの財産の中に、金銭債権があったとします。債権を回収したい債権者Xとしては、その金銭債権の債務者Yが債務者Aに弁済して債務者Aが任意に履行することを期待するよりも、債務者Aの債務者Yから直接自分に対して支払ってくれた方がありがたいです(ここの債務者Yを、第三債務者といいます)。第三債務者Yが資金潤沢な人なら、経済事情の良くない債務者Aを相手にするよりすんなりいくでしょう。

債権者Xが、債務者Aが第三債務者Yに対する債権を差押え、第三債務者Yが債権者Xに金銭を支払うことにより回収する方法が、債権執行です。

このことを前提に、相殺の担保的機能とは何かを考えます。

債権者Xと第三債務者Yが同一人物である場合を考えてみましょう。

債務者Aが支払ってくれないとき、債権執行は次のようになります。債権者Xは、債務者Aが第三債務者Xに対して有する金銭債権を差し押さえます。第三債務者Xは、債権者Xに対して差し押さえられた金銭を支払います。これによって、債権者Xが債務者Aに対して有していた債権は消滅し、同時に、債務者Aが第三債務者Xに対して有していた債権も消滅します。

差押債権者と第三債務者が同一人であるときの債権執行では、Xは、自分に対して金銭を支払い、同時に、Aに対する支払いを免れています。

説明がまわりくどくなってしまいましたが、要するに、差押債権者と第三債務者が同一人物である場合、債権執行によって回収が行われた結果は、相殺によって債権債務が消滅した結果と同一なのです。

つまり、相殺を行うことは、債権執行によって債権回収することと同じなのです。

このことを指して、相殺には担保的機能があるといわれています。

なお、民法上は債権消滅原因の一つとして定められていますが、他の法律では、相殺は権利であると定められていたりもします。たとえば破産法では、「相殺権」となっています(破産法67条以下)。

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