2015年12月18日

消極的確認の訴えの訴訟物

判例(最判昭和40年9月17日民集19巻6号1533頁)の考え方。

消極的確認の訴えの訴訟物は、積極的確認の訴えの訴訟物と対比して考えるとわかりやすいです。

「私とあなたの間には、100万円の金銭の貸し借りがある。90万円は返済されている。」という簡単な事例で考えましょう。

積極的確認の訴えの場合、原告となるのは貸主です。貸主は、「10万円の債権があることを確認する」との訴えを求めます。100万円の金銭消費貸借のうち、残っている10万円の部分の存在確認を求めているのです。

これに対して、消極的確認の訴えの場合、原告となるのは借主です。借主は、「10万円を超える債務が存在しないことを確認する」との訴えを求めます。「10万円を超える債務が存在しないこと」とは、「(100万円の金銭消費貸借のうち、)10万円を超える債務が存在しないこと」という意味です。つまり、こちらの場合、不存在である債務の90万円の部分の確認を求めていることになります(上記最判)。言い換えると、すでに消滅した90万円の部分の不存在確認を求めるのが、消極的確認の訴えです。

積極的確認では「10万円部分の存在」が訴訟物となり、消極的確認の方では「90万円の部分の不存在」が訴訟物となっています。図示できないのが心苦しいのですが、図示すると分かりやすいので、ぜひ描いてみてください。

それぞれの訴えが一部認容された場合を考えてみましょう。

積極的確認の訴えは、証拠調べをしてみたら実は残債権が9万円であったとの心証を得た場合、9万円の債権がありましたよとの判決をします。逆に、残債権が原告の言う10万円よりも多い11万円だったことが判明した場合であっても、11万円債権がありますとの確認判決をすることはできません。処分権主義違反だからです。民訴246条違反です。もし11万円の債権がありますなんて判決がされたら、被告としてはびっくりです。全部敗訴しても10万円だと思っていたのに、それ以上の負けを言い渡されるかもしれないなんて、まさに不意打ちです。

消極的確認の訴えの方では、たとえば、不存在は89万円でしたという判決が一部認容になります。こちらでは、不存在部分が原告の言う90万円を超えることが判明しても、不存在は91万円でしたという判決をするのは処分権主義違反です。ちょっとつっこんでみてみましょう。消極的の方で不存在は89万円だったと判断する場合、残債権額は11万円だったということになります。積極的確認では、10万円の存在確認を求めた際に、11万円の存在確認の判決をすることは処分権主義違反となっていました。この点に引っ張られてしまって、消極的の方でも同様に処分権主義違反では?と考えてしまうかもしれません。ですが、処分権主義違反かどうかは、「当事者が申し立てていない事項」について判決をしたか否かで判断しますので、原告たる債務者の申立を基準にすることとなり、違反はないということになるのです。

(なお、通常は、確認の訴えを提起するより、給付訴訟を提起するのが普通です。給付訴訟の方が方法として適切なのに確認訴訟を提起した場合、確認の訴えの利益が否定されますので、訴え却下となりますのでご注意。)

0 件のコメント: