2013年7月26日

民法116条ただし書の「第三者」

この「第三者」、よく分かりません。マイナーですし。初めて川井先生の教科書を読んだ時にわからなかったのはもちろんですが、今読みかえしてもよくわかりません。どんな時に適用されるのか、何を予定している条文なのか。今日はこれを考えてみます。

民法116条は「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定しています。川井先生の教科書によれば、この「第三者」とは、無権代理行為の追認の遡及効によって権利を侵害されるすべての第三者を意味します。

事例で考えてみましょう。

Aさんの無権代理人Bさんが、Aさんの代理人と称して土地をYさんに売りました。その数日後、Aさんは同じ土地をXさんに売りました。Bさんの無権代理行為を知ったAさんは、Yさんへの売値の方が高かったものですから、Bさんの無権代理行為を追認してしまいました。代金をすぐに支払ってほしかったAさんは、Yさんに土地の登記を移転し、代金を支払ってもらいました。

さてこの場合、XさんとYさん、どちらが土地を手に入れられるでしょうか?

民法116条本文によって、Aさんの追認はB・Y間の契約時に遡ります。Xさんとしてはたまったもんじゃありません。Xさんは、自分は「無権代理行為の追認の遡及効によって権利を侵害され」ていると言うでしょう。Aさんの追認によってYさんが土地の所有権を得たことになるならば、X・Aの契約時においてはAさんは無権利であったことになって、Xさんが土地所有権をAさんから承継することはできないということになるからです(無権利の法理)。

じゃあXさんが民法116条ただし書の「第三者」にあたって、Xさんが土地を手に入れられるかというと、そうはならないのです。なぜなら、この場合は民法177条の適用によって解決される問題だからです。

確かにYさんが登記を備えていますから、民法177条によれば、Yさんは土地の取得をXさんに対抗することができます。でもなんだか腑に落ちませんでした。だって丙さんは追認の遡及効によって権利を侵害されているでしょう? なんで116条ただし書じゃなくて177条で解決しなきゃならないわけ?と疑問に思った次第です。

で、この場合に116条ただし書が適用されない理由は、

  • 無権代理行為の追認によって関係当事者に生ずる事態は、二重譲渡と同じ事態だから

です。どういうことかというと、無権代理行為が追認によって行為時から有効となるということは、土地所有者Aさんが無権代理行為時にYさんに売ったのと同じことになる、ということなのです。代理人は本人の代わりですから。つまりAさんはまず土地をYさんに売り、その後Xさんに売ったということになるわけです。この場合に民法116条ただし書を適用して登記を具備したYさんを負かすのは、二重譲渡の否定になってしまいます。不動産を二重に譲渡できるかどうかについて、一般的にはそれは可能だとして運用されていますし、二重譲渡事例においては民法177条で解決することになっていますから、民法116条ただし書を適用しないことにしておこう、ということなのです。

じゃあ民法116条ただし書が適用されるのってどんな事例なの? といいますと、それは、
  • X・Yの取得した地位がともに排他性を備える場合
とされています。上の例で、売買の目的となったのが債権である場合などです。債権なら、XさんもYさんもともに対抗要件=通知・承諾を備えることができますから(民法467条参照)。しかもその対抗要件は同順位ということがありえるので、対抗要件の具備で優劣を決することができない場合がありえます。このような場合に民法116条ただし書の出番となるわけです。


・・・といったことが四宮先生の論文(遡及効と対抗要件―第三者保護規定を中心として―四宮和夫民法論集)に書いてありました。

それでは。