事例
A会社は、500万円の国税を滞納しているが、Y会社に対して売掛金債権600万円を有している。
Y社は、Aに対して650万円の貸金債権を有している(Yが貸金債権を取得したのは、Xの差押え以前)。
X(国)は、国税債権を回収するため、2013年5月7日に、AのYに対する売掛金債権を差し押さえた。
AのYに対する売掛金債権の弁済期は同年6月10日であり、YのAに対する貸金債権の弁済期は同年12月10日である。
現在は、同年12月20日とする。
2 Yのなしうる反論を論じなさい(前回)。
3 Xの請求が認められるか、Yの反論に対するXの再反論を考慮しながら述べなさい(今回)。
3(2) 判断
昭和45年判決は、次のように判示して無制限説を採用しました。
「相殺の制度は、互いに同種の債権を有する当事者間において、相対立する債権債務を簡易な方法によつて決済し、もつて両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であつて、相殺権を行使する債権者の立場からすれば、債務者の資力が不十分な場合においても、自己の債権については確実かつ十分な弁済を受けたと同様な利益を受けることができる点において、受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能を営むものである。」
「したがつて、第三債務者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解すべき」である
つまり、
- 相殺には、簡易決済機能、公平保持機能、担保的機能がある。
- 担保的機能は、相殺適状に達した場合に認められる。
といっているわけです。担保的機能は重要ですし、相殺する人はこれに期待するわけですけれども、相殺適状にないときにまで担保的機能があるとまでは言ってないわけです。
そんなわけで、Yが貸金債権を取得したのはXの差押えより前の時点ですし、現時点においては両債権が弁済期にあって相殺適状にあるから、Yの相殺の抗弁が認められます。
「履行遅滞に陥っておきながら、相殺したいがために弁済拒絶するとは何事か」という制限説の主張はかなりもっともな部分があります。約束は守るべきですから。
ですが、債務不履行なのに開き直っているという部分と、相殺したいという期待を持つという部分は分けて考えてもよいのではないかなぁ、という気もします。
相殺の効力は相殺適状時に遡及します(民法506条2項)。事例では、12月10日の時点ですね。この時点で、両債務は消滅しますので、それ以降の債務不履行の事実もなかったことになります。
しかし、それ以前の、つまり、6月10日から12月10日までの債務不履行の事実は相殺の行使とは関係なく存在しています。だから、Yとしては当然、債務不履行責任を負うわけですね。具体的には法定利息相当額を損害として負担します。・・・この損害って、Xが請求できるのか?
たしかにYの態度は褒められたものではないですが、そのツケは払わされることになります。
それに、12月10日以前の段階なら、Yは相殺できないのですから、Xの請求に対してYは支払わなければなりません。どうやって支払ってもらうかは問題ですけど。
制限説・無制限説というネーミングは「民法511条の反対解釈を制限する or しない」に由来します。
それでは。
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