2015年10月6日

訴因の特定・明示について(検討方法)

最決平成26年3月17日刑集68巻3号368頁についての平成26年度重要判例解説184頁(宮木康博)を読んで、訴因が特定・明示されているかの検討方法をメモりたくなったので。詳細は上記解説参照。

刑事訴訟法256条3項によると、「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」とされています。

訴因が特定・明示されているか否かのチェックポイントは以下の3点。

  • 第1の要請:「罪となるべき事実」としての事実記載として十分なものか
  • 第2の要請:「日時、場所及び方法」でもって具体的に特定してあるか
  • 第3の要請:1と2が「できる限り」なされているか

第1の要請:「罪となるべき事実」としての事実記載として十分なものか


ファーストステップは、「罪となるべき事実」の記載として十分なものかを検討します。刑事裁判のテーマ足り得る事実を扱うことを明らかにする必要があります。検討内容は次の通り。以下引用。

「『罪となるべき事実』には、当該訴因がいかなる犯罪構成要件に該当するかを判断し得る程度の具体的事実の記載が必要であり、具体的には、①当該犯罪行為がいかなる構成要件に該当するかを明らかにすること(構成要件要素の遺漏なき記載)と②特定の犯罪構成要件に該当するとの判断を可能とするために必要な事実上の根拠(合理的な確信を得るために必要な事実)を具体的に明らかにすることが訴因の特定に必要となる(第1の要請)」。

第2の要請:「日時、場所及び方法」でもって具体的に特定してあるか


裁判実務では、識別説による運用が定着しているとされます。識別説とは、どの程度具体的に犯罪事実を特定して明示することを要するかという問題について、審判対象の限定を重視する観点から、他の犯罪事実と区別できる程度に記載することを要し、かつそれで足りる(その範囲で被告人に防御の範囲を示す機能を認める)とする立場。

審判対象が限定されているというためには、「他の犯罪事実と区別できる」ことが重要。たとえば、両立する複数の犯罪が存在し得る場合には、起訴された犯罪事実がそのいずれに関するものかが明らかであることを検討します。併合罪とされる覚せい剤自己使用の場合、どの使用行為を審判対象とするのか明らかにする必要があるのは、この要請に基づくものです。一事不再理効や二重起訴禁止の範囲を明らかにする上でも重要な意味があります。

第3の要請:特定・明示が「できる限り」なされているか


そのまま引用。「第1・第2のいずれの要請(最低限のハードル)もクリアされていなければ、『特殊事情』の有無にかかわらず、訴因は特定を欠き、公訴棄却を免れない。その上で、刑訴法256条3項後段が、訴因の明示方法として、『罪となるべき事実』を『できる限り日時、場所及び方法を以て』特定していることにかんがみると、本項は、上記2つの訴因の機能に資する具体的事実を具体的に示すことができるのであれば、第1・第2の要請を超えてそれを起訴状に記載することを要求する趣旨であると解される(第3の要請)」。

「特殊事情」とは、白山丸事件(最判昭和37年11月28日刑集16巻11号1633頁)のいう特殊事情のこと。同判決は、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、審判対象の画定、被告人に防御の範囲を示すという目的を害さない限りの幅のある表示をしても特定していないことにはならないと判示しました。

以上、メモ。

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