2013年9月25日

二段の推定の2段目の推定

二段の推定の2段目の性質について、法定証拠法則か、法律上の事実推定かの考え方の違いがあります。この違いは、推定を覆すときの立証の大変さにつながります。法定証拠法則なら反証でよいけど、法律上の事実推定とするなら本証が必要、という具合です。

反証とは、本証に対峙する概念で、ある事実の存在について真偽不明とすることを目指す立証活動です。本証とは、立証責任を負っている当事者の立証活動で、裁判官に事実の存在について確信をもたせるための立証活動です。

1段目はこちら

二段の推定とは、
  • 1段目の推定:印影(ハンコの跡)が、作成名義人の印章(ハンコ)と一致する→その印影は作成名義人の意思に基づいて押されたものである(最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁)
  • 2段目の推定:印影が作成名義人の意思に基づいて押されたものである→その私文書は真正に成立したものである(民訴228条4項)
のことです。

2段目の推定の内容を分析してみましょう。

2段目は、「印影が作成名義人の意思に基づいて押された」という事実から、「その私文書は真正に成立した」という事実を推定するものとなっています。

法定証拠法則と解する場合


法定証拠法則とは、自由心証主義の例外として、事実上の推定を法定化したものです。あくまで事実上の推定にすぎないものですから、その立証責任の所在は動いていません。文書の成立の真正の立証が、1段目の推定のおかげで容易になっているだけの話です。

ですから、法定証拠法則と解すると、2段目の推定を覆すためには「その私文書は真正に成立した」のではないかもしれないという反証で足りることになります。

法律上の事実推定と解する場合


まず法律上の事実推定について説明します。「乙事実あるときは、法律効果Aが発生する」(根拠規定)と定められているとします。この場合、別の規定で、「甲事実(前提事実)あるときは、乙事実(推定事実)あるものと推定する」(推定規定)と定められていることがあります。

この場合、法律効果Aの発生を欲する人(X)は、乙事実の存在を証明してもよいし、通常はそれより立証が容易な甲事実の存在を立証してもよいです(証明主題の選択)。相手方(Y)は法律効果Aが発生すると困ります。この場合、Yとしては、Xが甲事実の存在を立証した場合は、その存在を真偽不明にすることで推定を働かせないとする立証活動をすることがまず考えられます。これは、単なる反証です。ですが、通常、甲事実の立証は容易なので、そもそもこの反証は奏功しないことが多いでしょう。そうすると、乙事実の不存在が立証されない限り、法律効果Aは発生してしまいます。つまり、Xが推定規定を使ってきた場合、Yは、乙事実の不存在について立証責任を負うことになります(証明責任の転換)。

取得時効でいいますと、民法162条が根拠規定で、民法186条2項が推定規定です。前提事実になっているのは「前後両時点での占有」で、推定される事実は「その期間の占有継続」です。

2段目の推定を法律上の事実推定とする場合、民事訴訟法228条4項は推定規定となります。前提事実は「本人・代理人が自らの意思に基づいて署名・押印したこと」であり、推定事実は「当該私文書が真正に成立したこと=当該私文書が本人・代理人の意思に基づいて作成されたこと」となります。

文書の真正について証明責任が転換するので、この推定を覆そうとする人は、「当該文書が本人・代理人の意思に基づいて作成されたこと」という事実の不存在について証明(本証)しなければなりません。

以上です。

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