2013年9月13日

裁判上の自白の成否

裁判所は、当事者間に争いのない事実については判決の基礎としなければなりません(弁論主義第2テーゼ。自白の拘束力)。ここでいう「当事者間に争いのない事実」とは、裁判上の自白が成立した事実を言います。裁判上の自白というのは、一方当事者が口頭弁論または弁論準備手続においてする、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述のことをいいます。

裁判上の自白が成立すると、

  • 審判排除効:裁判所はその事実についてそのまま判決の基礎とし、これに反する事実を認定することはできない
  • 証明不要効:自白された事実については証明責任が免除される(民事訴訟法179条)
  • 撤回禁止効:自白した当事者は無条件で自白内容に反する主張が禁止される

という強力な効果が生じます。

そこで、自白が成立するか否か(これは、『裁判所はその事実をそのまま判決の基礎とできるか(しなければならないか)』とか、『自白を撤回できるか』という問題設定と同じ意味です)がかなり深刻な問題となります。

このトピックについては、学説も百花繚乱で、華々しく議論されています。教科書や解説書にあたってみても、「なるほど!そうだったのか!」と明快に理解できるというより、「ごちゃごちゃとした議論がなされているな、よくわからないな・・・」という感想を持つかもしれません。

論点もてんこもりです。自白撤回の可否とか、間接事実の自白とか、権利自白とか、文書の成立の真正に自白が成立するかとか。だから、何を論ずればよいのか、その目印がほしくなります。

どうやって分析すればよいのでしょう?

当事者で一致している陳述は、事実か、法律関係か。事実ならば、それはどのような事実か。

分析する上で一番大事な視点は、これです。ここが明確になれば、あとは自動的に述べることが決まります。

法律関係に関する陳述の一致ならば、権利自白の論点を検討することになりますし、補助事実についての陳述の一致で問題となるのは文書の成立の真正に関する陳述の一致ですので、この辺りは明確です。

問題は、一致した陳述が、主要事実についてであるのか、間接事実についてであるのかの区別です。

この区別はやっかいです。なぜなら、売買契約という事実であっても、それが主要事実になったり間接事実になるので、わかりにくいからです。

主要事実と間接事実の区別は、当該事実が積極否認にあたるのか、抗弁にあたるのかで考えます。積極否認にあたるなら間接事実になり、抗弁に当たるなら主要事実として扱います。

この区別を意味のある基準とするには、当該訴訟の要件事実的検討が必要です。

要件事実的検討とは何かといいますと、「この訴訟の訴訟物は○○で、だから請求原因事実が○○で、それに対して被告がこういう反論をしているからこれは抗弁にあたって、抗弁事実は●●で・・・・・・」という分析です。なれれば割と簡単です。これを使うと、「その事実は積極否認か抗弁か」の区別がつきやすくなります。それに、実際の紛争を理解していることも示せて、好印象です。

そのようにして事実が主要事実に区別されたのなら、自白の撤回の可否を検討することになりますし、間接事実に区別されたのなら、間接事実に自白が成立するかを検討することになるでしょう。

権利自白が問題となる場合

当事者間で一致した陳述が法律関係であった場合、権利自白の論点を書くことになります。「原則否定されるが、事実の自白に引き付けて考えることができる場合には例外的に自白が成立する」というのが、一般的です。が、この前に、次の検討が重要です。

それは、一致した法律上の陳述が次のうちどれかの検討です。

  • ①法規・経験則の存否や内容、解釈に関する陳述
  • ②特定の事実が特定の法規の構成要件に該当するか否かを評価する陳述
  • ③権利関係、法的効果に関する陳述

このうち、権利自白の問題として論ずべきなのは、③だけです。

①にあたるのに、「例外的に事実の自白といえるなら自白成立」とか書くと、分かってないのがバレます。

法律解釈は、裁判所の専権事項です。ですから、当事者がある法律解釈について陳述を一致させていても、裁判所が違う解釈を是とするなら、そのように判断してよいです。ですから、①について当事者の陳述の一致があったとしても、自白が成立することはありません。

②も同様です(たぶん)。

どの法律上の陳述に当たるかの検討を忘れないようにしましょう。

0 件のコメント: