2014年4月23日

弁済による代位と財団債権性・共益債権性の承継②

百選(5版)48事件に新しく収録された最判平成23年11月22日民集65巻8号3165頁(①事件)と、最判平成23年11月24日民集65巻8号3213頁(②事件)について。

問題点の所在を把握したり、百選の解説を理解するためにはもう少し補足説明が必要だと思うので、メモしておきます。主張反論形式で。

①事件についてはメモしたので、②事件について。

原告の主張 


事実の概要

平成19年9月3日、A社(昭和ナミレイ株式会社。請負人)は、韓国企業であるB社(STX社。注文主)との間で、船舶で使用する断熱材の製造を目的とする請負契約(報酬1196万9803$。本件請負契約)を締結しました。

同年12月26日、A社は、かねてから取引のあったX銀行(三菱東京UFJ銀行)に対し、A社がB社から本件請負契約に基づき受領する報酬の前渡金(239万3960.60$)の返還債務の支払保証を、X銀行とA社との間の支払承諾取引に基づき依頼したところ、X銀行は承諾し、B社に対し支払保証書を交付して、上記前渡金返還債務を保証しました。

平成20年1月ごろ、A社は、B社から本件請負契約の報酬の一部の前渡金239万3960.60$を受領しました。

同年6月18日、A社は、再生手続開始決定を受けました。

同年7月1日、A社の再生管財人Yは、民再49条1項に基づき、B社に対し、上記請負契約を解除する旨の意思表示をしました。

同年8月8日、X銀行は、B社に対し、前渡金返還債務の保証契約に基づき、239万3960.60$を支払いました。

法律構成

弁済による代位の要件は、①弁済などによる債権者の満足、②求償権があること、③債権者の承諾(民法499条2項)または弁済者に弁済の正当な利益がある(民法500条)ことの3つです。弁済をするについて正当な利益を有する者(民500条)とは、弁済をするについて利害関係を有する者です(民474条2項反対解釈)。

本件では、①X銀行の保証債務の履行による債権者B社の満足、②X銀行は再生債務者A社との保証委託契約に基づき保証債務の履行をしたから、保証人の事後求償権を取得した(民法459条1項)、③主債務が消滅すると保証債務も附従性によって消滅するから、X銀行は弁済をするにつき正当な利益があります(民500条、474条2項反対解釈)。

B社の前渡金返還債権は、民再49条1項に基づいて本件請負契約が解除されたものであるため、前渡金相当額について共益債権となります(同条5項、破54条2項)。共益債権は、再生債権に先立って(民再121条2項)、再生手続によらないで、随時弁済を受けることができます(同条1項)。

以上により、X銀行は、Yに対し、B社に代位して前渡金相当額の支払いを請求します。

被告の反論 その1


本件前渡金返還請求権が共益債権とされるのは、管財人の選択によって一方的に解除されるという不安定な地位を強いられる相手方の保護を図る趣旨からです。

 そうであるならば、保護される当事者として想定されるのは、請負契約の相手方であったB社であり、A社から委託を受けて保証したX銀行ではありません。

したがって、X銀行が弁済による代位によって取得した原債権からは共益債権性が消滅しているというべきです(1審の論理)。ゆえに、個別的権利行使不可です。

被告の反論 その2


弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保するために、法の規定によって弁済により消滅するはずの原債権及び担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者が求償権の範囲内で原債権及び担保権を行使することを認める制度です(最判昭和59年5月29日民集38巻7号885頁・民法百選Ⅱ39事件)。さらに、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求償権を確保することを目的とする付従的性質を有します(最判昭和61年2月20日民集40巻1号43頁)。

X銀行が取得した求償権は、再生手続開始前の保証委託契約に基づいて生じた財産上の請求権であるから、再生債権です(民再84条1項)。再生債権は、個別的権利行使が禁止されます(民再85条)。

求償権が再生債権である場合には、再生債権が行使できる範囲で弁済による代位によって取得した原債権を行使できるにすぎないと考えられます。すなわち、「自己の権利に基づいて求償することができる範囲内」(民法501条柱書)とは、求償権の行使に実体法上または手続法上の制約が存する場合には、原債権がその制約に服することをも意味していると捉えるのです(1審の論理)。

ゆえに、X銀行による、共益債権である前渡金返還債権の行使は、再生債権である求償権の制約を受けます。よって、個別的権利行使不可です。

問題点の所在


以上から、問題点の所在は次の通りとなります。

  • 民再49条1項によって解除され、同条5項・破54条2項によって共益債権となった債権が弁済による代位の目的となった場合、共益債権性が承継されるのか

  • 求償権が再生債権である場合にも、原債権が共益債権である場合には、共益債権の性質を有する原債権を行使できるのか


判旨


百選他を参照してください。

以上を押さえてから判旨や百選の解説を読めば、グッとわかると思います。

この問題を考えるに当たっては、伊藤眞「財団債権(共益債権)の地位再考」金融法務事情1897号12頁が参考になります。

以上です。

0 件のコメント: