2014年4月29日

「事業の執行について」の要件該当性

使用者責任(民法715条)の要件は、

  • 被用者に民法709条の不法行為責任が成立すること
  • 使用・被使用関係があること
  • 被用者の行為が使用者の「事業の執行について」行われたこと

の3点です(715条1項ただし書は消極的要件)。

「事業の執行について」の要件該当性についてメモ。


判例は、外形理論を採用しています(最判昭和39年2月4日民集18巻2号252頁など。)。すなわち、
「事業の執行について」とは、「必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りる」
とされます(前掲最判昭和39年)。

外形理論の根拠としては、行為の外形に対する第三者の信頼を保護するためという点があげられます(だからこそ、事実的不法行為の事例について外形理論を用いることに批判があるわけです)。

この点から、取引的不法行為においては、被害者の主観的な事情が考慮されます。最判昭和42年11月2日民集21巻9号2278頁・百選Ⅱ84事件の、
「被用者のなした取引行為が、その行為の外形からみて、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、その行為が被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながら、または、少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたと認められるときは」、当該被用者の行為は「その事業の執行について」行われたものとはいえない
という判示です。

どうして被害者の主観的事情を考慮するのか(事業執行性の要件の機能について)



不法行為に基づく損害賠償の制度は、損害の衡平な分担を図るものです。

使用者責任は、被用者のなした不法行為に基づく損害を、報償責任や危険責任といった見地から、直接の加害者ではない使用者が代わりに責任を負担する制度です。

ここでは、被害者に生じた損害が、被用者の不法行為を介して、使用者に帰責することが正当と判断される必要があります。

その判断を媒介するのが、「事業の執行について」という要件なのです。

つまり、「事業の執行について」の判断を外形理論によってする限り、被害者と使用者の利益衡量を行い、被害者の損害賠償が正当なものか否か=行為の外形に対する被害者の信頼が正当なものか否かを判断するべきです(取引的不法行為においては特に)

もちろん、悪いのは被用者・使用者側です。ですから、最判昭和42年は、その利益衡量の指針として、保護されるべきでないことが明らかでない被害者(悪意または重過失な被害者)についてのみ損害賠償を否定することにしたのです。

なお、重過失とは、
「取引の相手方において、わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行為がその職務権限内において適法に行なわれたものでない事情を知ることができたのに、そのことに出でず、漫然これを職務権限内の行為と信じ、もつて、一般人に要求される注意義務に著しく違反することであつて、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまつたく保護を与えないことが相当と認められる状態」
です(最判昭和44年11月21日民集23巻11号2097頁)。

以上です。

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