2013年12月16日

理事の代表権の制限 民法110条類推適用

定款で理事の代表権が制限されている場合、どのようにして制限されている取引をした相手方の保護を図るかという問題点があります。最判昭和60年11月29日民集39巻7号1760頁です。判例解説は民法判例百選Ⅰ31事件(能見善久)を参照。

判例は民法110条を類推適用して相手方の保護を図ります。なぜ民法110条を類推適用できるのか、その類推の基礎を考えます。

代表理事は法人の包括的代表権を有するのが原則であるため(一般法人法77条1項・4項)、代表理事の権限に制限を加えても、それを知らない第三者には対抗できません(同条5項)。相手からすればトップが決定権を持っていると考えるのが普通なので、法人の一番偉い人が契約を締結してくれるのなら、相手はその契約は問題なく成立したと考えるからです。

このように、契約の相手方が代表権の制限について善意であれば一般法人法77条5項で対応できるのですが、その制限自体は知っていたが制限はクリアされていたと信頼した場合が問題となります。ある行為を代表理事が行うときには理事会の承認が必要と定款で定められていたが、相手方は理事会の承認があったと認識していた場合です。

上記判例は、相手方が善意であるとはいえない場合であっても、相手方において、理事がその行為につき理事会の決議等を得て適法に法人を代表する権限を有するものと信じ、かつ、このように信じるにつき正当の理由がある場合には、民法110条を類推適用し、法人は当該行為の責任を負うと判示しました。

なぜ類推適用できるのか。類推の基礎はあるのか。

民法110条は、基本代理権を授与された代理人が、その権限を越える行為を代理行為として行った場合に、当該代理行為が代理権の範囲内のものであると信頼した相手方を保護する規定です(詳しくはこちら)。ここでの相手方の認識は「その行為をカバーする代理権は存在する」です。

他方、代表権の制限がクリアされたと信頼した相手方の認識は「その行為をカバーする代表権は本来制限されている(存在しない)のであるが、今回は制限が取り払われている。つまり、代表する権限がある」であるといえます。

その行為をする代理権or代表権があると信頼しているという点で、民法110条との類似性があるといえます。もちろん、基本代理権の存在と理事の代表権、権限外行為がなされていることについても類似性が指摘できます。

以上が類推の基礎となり、民法110条を類推適用できます。

代表権の制限の存在は知っていた場合、それが解除されたとの信頼が保護に値するためには、理事会の承認があったと信じるにつき正当な理由=過失がないことが必要です。代表理事の言葉を信じるだけでは無過失を認定するのは難しいでしょう。他の理事に確認をとったことや、理事会の議事録を参照した事実などが必要と考えられます。理事会では議事録の作成が義務付けられており(一般法人法95条3項)、債権者は議事録の閲覧謄写請求ができるので(同法97条)、何とか立証できるかと。

今日のところは以上です。

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