2013年12月6日

権利外観法理と民法94条2項③ 民法94条2項・110条類推適用

前々回、前回に引続き、権利外観法理と民法94条2項についてです。今回は民法94条2項・110条類推適用(重畳適用)です。

前々回=権利外観法理と民法94条2項①:民法94条2項直接適用

前回=権利外観法理と民法94条2項②:民法94条2項類推適用



民法94条2項・110条類推適用


前回述べた外形他人作出型は作出された外形を本人が承認していた場合を想定しており、そこでは外形は本人の意思と対応しています(意思対応型)。

しかし、他人作出型の中には本人の承認した外形よりも実際に現れた外形の方がより大きいものがあります(意思非対応型)。また、本人の承認がないものもありえます(外形与因型)。

例えば、本人Xが虚偽のA名義の仮登記をし、Aがそれに乗じXの知らぬ間に本登記にした事例(外形意思非対応型)や、XがAに甲土地の管理をまかせており、XがAを信用して重要書類を交付し、Aがそれを濫用して自己への移転登記がなされた場合など、不実登記の原因・基礎の作出に本人の関与があるにすぎない場合(外形与因型)などです。外形与因型は、最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁で問題になりました。

ここでは虚偽の外観は存在しています(要件①は充足)。しかし、意思非対応型や外形予因型では外形のサイズが本人の意思(本人の帰責性)を超えていますので、(判例における)民法94条2項類推適用ではカバーできません。民法94条2項類推適用における本人の帰責性要件は外形に対する本人の意思関与=外形の承認であり、承認した外形と現れた外形は一致していないとだめなのです。

そこで第三者Yを保護するために、民法110条を持ってきます。

民法94条2項の権利外観法理は、本人が外観を作出したといってよいほどに本人に帰責性があり、この外形を使って他人が処分行為をしたという場合を対象にしています。一方、110条は、基本代理権を与えた点に本人の帰責性を認め、代理人がその基本代理権を超えるサイズの処分行為をしたという場合を対象にしています。この2つは、本人が無権利者処分の原因・基礎を作出している点、その無権利者によって本人の意思を逸脱した処分行為が行われたという点に、類似性を認めることができます。両制度は無権利者取引における外観信頼保護という目的も共通しています。ですから、110条をも援用できると考えるわけです(類推の基礎)。

このようにして民法110条を用い、③第三者の正当な信頼要件を加重します。第三者の正当な信頼要件を、第三者に「正当な理由」があること=外観が真実であると信ずるについて正当な理由があること=虚偽の外観であることについて善意で過失がないこととして加重し、本人の帰責性要件を緩和しながら第三者を保護する法理を導くのです。


以上から民法94条2項・110条類推適用の要件を整理すると、

  • ①虚偽の外観の存在
  • ②不実登記の基礎・原因となった虚偽の外形が本人の意思に基づいているor不実登記の基礎・原因に対する本人の意思関与につき、不実登記に対する承認と同視し得る程度に重大な帰責性が認められる(本人の帰責性)
  • ③外観が虚偽であることを第三者が知らないし、知らないことに過失がない(第三者の正当な信頼)

となります。ここでの本人の帰責性要件を認定する際に考慮する要素について、民法判例百選Ⅰ(6版)の22事件解説参照。


なお、民法94条2項類推適用において、第三者の主観的要件に善意のみならず過失がないことを要求する見解もあります。この見解に立てば、外形自己or他人作出、外形意思非対応or与因のいずれにおいても、94条2項一本でいけます。民法94条2項の個性が希薄になっている見解と言えます。

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