2013年12月5日

権利外観法理と民法94条2項② 民法94条2項類推適用

前回に引き続き、権利外観法理と民法94条2項についてです。今回は判例における民法94条2項類推適用をみます。

前回=権利外観法理と民法94条2項①:民法94条2項直接適用


(判例における)民法94条2項類推適用

外形自己作出型


前回の例で、XからAへの甲土地登記名義の移転がXひとりによってなされたとします。

その場合、民法94条2項を直接適用することはできません。なぜなら、虚偽の外観の作出に通謀がないからです。民法94条2項は「相手方と通じてした意思表示」による虚偽の外観を前提とするので、それがない以上、民法94条2項を直接適用する前提に欠けます。

このことゆえにYは保護されないと考えるのはありえないでしょう。結論としてはYがXに優先する・Yが保護されるとしても、そのための論理構成が必要となります。その論理構成が民法94条2項の類推適用です。

ここでは、直接適用の要件のうち、①通謀による虚偽の外観がないことが問題となっています。

ということは、通謀による虚偽の外観に匹敵する事実があるならば、通謀虚偽表示=民法94条1項を前提とする同条2項を適用してよいと考えられます。

権利外観法理を構成する諸点のうち、力点は本人の帰責性と第三者の信頼にあります。帰責性のある本人と信頼を寄せた第三者を比較し、本人の犠牲のもとに第三者を保護するのが外観法理ですから、外観の作出を本人がなした以上、それは「通謀による虚偽の外観に匹敵する事実」といってよいでしょう。民法94条2項を類推適用する基礎があります(類推適用をする場合には、必ず類推の基礎があることを示しましょう)。

ゆえに民法94条2項を類推適用し、Yを保護することができます。この場合を外形自己作出型と呼んだりします。

外形他人作出型


XからAへの甲土地登記名義の移転がAのみによってなされ、Xは移転登記手続に関与していなかったとします(外形他人作出型)。

この場合、たしかに虚偽の外観は存在していますが、これだけでは本人の帰責性がありません。民法94条2項を使うには、直接適用における要件②「虚偽の外観を本人が作出したこと」と同程度に本人に帰責性が認められる事実が必要です。

権利外観法理において本人の帰責性要件が必要とされるのは、虚偽の外観作出を本人自らが行ったことにマイナスの評価を与えるためです。つまり、外観作出に本人の帰責性がある=外観作出に本人の意思関与が認められると言い換えてよいでしょう。そうであるならば外観が他人によって作出されても、本人がそれを知りながら明示に、もしくは黙示に承認していたといえるなら本人の意思関与有と言えます(類推の基礎)。

その場合、外形自己作出型と同様に、民法94条2項を類推適用することができます。

以上から民法94条2項類推適用の要件を整理すると、

  • ①虚偽の外観の存在
  • ②外観を認識しながらそれを明示or黙示に承認(本人の帰責性)
  • ③外観が虚偽であることについて第三者が知らないこと(第三者の正当な信頼)

となります。外形自己作出型は他人作出型に包摂できるため区別していません。


なお、民法94条2項類推適用において、第三者の主観的要件に善意のみならず過失がないことを要求する見解が有力ですが、判例は無過失を要求していません。


次回は94条2項・110条類推適用についてです。

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