2013年12月10日

有権代理と表見代理③ 権限外行為の表見代理

権限外行為の表見代理についてです。権限踰越の表見代理と表現されたりもします。

有権代理の要件(民99条)
代理権授与表示の表見代理の要件(民109条)


まずは条文の文言から要件を導きます。民法110条です。

110条は、「前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する」と規定します。

110条は「代理人がその権限外の行為をした場合」の条文なので、基本代理権を有している代理人の行為がなされた状況を想定しています。ここから、基本代理権の存在顕名代理行為の要件が導けます。

また、110条は「第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき」の条文なので、第三者が代理行為をカバーする代理権があると信じるのも無理ではないということができる正当な理由があることが要件となります。

「第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由」とは、(代理人のなした代理行為をカバーする)代理権がないことを知らないこと、代理権がないことについて過失がないことなので、第三者の善意無過失であると解されています。

以上から110条の要件をまとめると、

  • 基本代理権の存在
  • 顕名
  • 代理行為
  • 第三者が権限外行為であることについて善意無過失であること
となります。

基本代理権が存在し、第三者が善意無過失である場合、顕名の上なされた代理行為については109条本文の規定が準用されます。110条は準用規定で、念のため述べると、110条のいう「前条本文の規定は……準用する」の意味は、109条と同様の効果が発生するという意味です。つまり、110条は、上の4要件があるとき、その無権代理行為の責任は本人が負うと定めている条文です。

外観法理との比較


権限外行為の表見代理は権利外観法理のあらわれであるので、その要件も外観法理を反映したものであるといえます。

外観法理とは、真実の実体関係とは異なる外観が存在し、その外観の作出に本人の帰責性が認められる場合、外観が存在することについて正当な信頼を寄せた第三者を保護するという制度で、①外観の存在、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼の3点を構成要素としています。

③第三者の正当な信頼は、第三者の正当な理由の要件が担います。

①外観の存在と②本人の帰責性は、基本代理権の存在の要件が担っています。基本代理権の存在がなぜ本人の帰責性を意味するのかというと、本人との信頼関係を裏切り、代理権の範囲を超える行為を代理権の範囲内であるとして行為してしまうような人間を代理人に選んだ点に本人の落ち度があると考えるからです。

有権代理との比較


有権代理(民99条)の要件は、
  • 代理権の存在
  • 顕名
  • 代理行為
でした。

対して権限外行為の表見代理の要件は、上記の通り、

  • 基本代理権の存在
  • 顕名
  • 代理行為
  • 第三者が権限外行為であることについて善意無過失であること
です。

顕名と代理行為の要件は共通しています。

有権代理の要件としての代理権は、代理行為によって受ける本人の利益および本人が負う不利益を画する要件でした。本人は代理権の範囲に属する代理行為の責任を負わなければなりません。表見代理は、本来は無権代理行為なので本人に効果帰属しないのに、その無権代理行為の責任を本人が負う制度です。信用できない者に代理権を与えた者は、代理行為が代理権を超えていないと信じるにつき正当な理由がある者に対しては、当該無権代理行為の責任を負わねばなりません。すなわち、110条における基本代理権の存在と第三者の正当な理由の要件は、有権代理における代理権の要件に対応しているものといえます。

  • 代理権(民99条)=基本代理権の存在+第三者の正当理由(民110条)

今日のところは以上です。次回は代理権消滅後の表見代理についてです。

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