2013年12月7日

有権代理と表見代理① 有権代理の要件

代理には有権代理と無権代理があり、有権代理ならば本人に代理行為が帰属しますが、無権代理では原則として本人に効果帰属しません。

表見代理は無権代理に含まれますが、無権代理行為の責任を本人が負わなければならず、結果的に有権代理と同様の効果が生じる制度です。

今回から数回にわたり、これら代理の要件をみます。今回は有権代理の要件です。


有権代理の要件は、

  • 代理権
  • 顕名
  • 代理行為

の3つです。


まずは条文からこの要件を抜き出します。条文は民法99条です。代理で一番大事な条文。

民法99条は、その1項に「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる」と規定しています。

「代理人がその権限内において」という規定ぶりから、代理人には代理をする権限、すなわち①代理権が備わっている必要があります。

「本人のためにすることを示して」という部分が②顕名をあらわしています。

その後に続く「意思表示」が③代理行為をあらわします。代理行為とは代理人がした法律行為という意味です。意思表示とは法律行為の要素となるもので、売買契約における「売ります」「買います」といった意思の表示がそれです。売買契約が法律行為、「売ります」「買います」が売買契約の要素となる意思表示です。意思表示が合致すれば売買契約が成立するので、意思表示≒法律行為といって差し支えないでしょう。なので、99条の「意思表示」≒代理人がした法律行為≒代理行為と表現されることが多いのです。

この要件がそろうと、代理行為が本人に直接帰属するという効果が生じます。99条の、代理人の「意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる」という部分がこれで、代理人の意思表示=本人の意思表示となることから、本人が当事者となる法律行為が成立するのです。

それぞれの要件の趣旨をみます。

まず、①代理権について。

代理は、自分以外の誰かがなした法律行為が、自分を当事者として成立する制度です。非常に便利な制度です。便利な制度ですが、本人がその場に立ち会わなくても本人に権利義務が発生するので、危うくもあります。何ら代理権が与えられていないのに、自称代理人がした金銭消費貸借契約が本人に帰属するとすると、本人は金銭返還債務を負うことになり、不利益を負います。つまり、代理権の存在は、「この権限の範囲でこの人がなした行為は私が引き受けます」との意思表明のあらわれであり、本人の得る利益・負う不利益を画するものです。代理権は、本人の利益保護のための要件と言えます。

代理権を欠く代理行為は、相手方にとっても不利益となります。相手方を買主とする売買が代理権を欠くために無権代理となると、相手方は本人に対し物の引渡を請求できません。このようにみると代理権の存在は相手方の利益を保護するためであるようにも思えるのですが、そう解するのは誤りです。なぜなら、相手方としては代理権の有無を調査しなければならないし、それをせずに軽々に行動した責任は自分が負うべきだからです。契約を締結しないことも可能である以上、代理権の存在要件が相手方の利益保護のためと解するべきではありません。

相手方保護は、②顕名の要件が担います。

通常、契約の当事者となるのは、契約締結の場に立ち会った者です。代理制度はその場にいない者を当事者とすることを可能にしますから、そのことは相手方に知らされるべきです。顕名を欠く代理行為は、一般的にいって、相手方にとっては代理人を当事者とするものと認識されます。そのことを定めたのが民法100条です。100条は、代理人が「たしかに顕名を忘れたんだけど、あの代理行為は自分のためにしたものじゃなくて、私としては代理行為として行ったものだよ。だから、表示と内心に不一致があって錯誤だよ、あの代理行為は民法95条で無効だよ」という主張をすることを封じる規定です。ちなみにこれが民法100条本文の趣旨。

③代理行為の趣旨は、特にはありません。

今日は以上です。次は代理権授与表示による表見代理の要件です。

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