2013年12月18日

昭和51年判例の使い方

最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁(昭和51年判例)です。刑事訴訟法分野で最も重要な判例です。判例解説は刑事訴訟法判例百選1事件(大澤裕)参照。




昭和51年判例は、行政警察活動における警察官の有形力の行使が違法か否かを検討する判断基準です。行政警察活動に限定されず、司法警察活動(捜査)における判断基準としても使えます。

昭和51年判例は、「強制手段とは、有形力の行為を伴う手段を意味するのではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段に当たらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである」と判示しました。

すなわち、警察官の有形力の行使が違法か否かは、

  • 強制処分に該当するか
  • 任意処分として許容されるものか
の2段階で判断します。

強制処分に該当するか


昭和51年判例の赤字部分の判示部分が強制か否かの判断基準です。

この基準は個人の意思を制圧する重要な権利利益を制約するの2点を検討するものです。

あてはめには注意が必要です。「あてはめは事実をたくさんひろって、事実を評価してすべき」とよく聞きますが、強制か否かにおいてそれを行うと落とし穴にはまる可能性があります。この基準へのあてはめは、問題となっている警察官の行為が、一般的・抽象的にみて意思を制圧するものか&権利利益を制約するものかどうかに着目して行います。

S51年判例では、警察署へ任意同行した後、交通事故をおこしたXに対して酒酔い運転の疑いがあったので呼気検査をするよう説得していたのですが、Xが突然立ち上がり立ち去ろうとしたため、警察官が両手でXの左手首を掴むなどの制止行為をし、この制止行為が問題となりました。

Xが極端に怖がりで、警察官の前に座っているだけで委縮してしまっていた場合、Xの意思は制圧されていたといえます。しかし、Xが実際に意思を制圧されていたかどうかは本質的には重要ではなくて、普通の人がその場にいて意思が制圧されるかどうかが問題なのです。一般的・抽象的に検討するとはこういう意味です。

意思制圧がある+権利利益が制約されている=強制であると判断される場合、そこで答案を終わってはいけません。刑訴法197条1項ただし書により「強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない」ので、問題となっている警察官の有形力行使がどの強制処分にあたるか(逮捕か差押えか等)、法定の手続・要件を充足しているかを検討し、それを充足していないことを確認して、「有形力行使は強制処分法定主義に反し違法である」との結論に至ることができます。法定の強制処分に該当しない場合は、それが確認できた時点で違法宣言できます。

任意処分として許容できるか


昭和51年判例の青字部分が判断基準です。

この規範は比例原則が具体化したものであるといわれます。つまり、ここでは有形力行使の必要性・緊急性と侵害される利益の内容・侵害態様を比較し、有形力行使が相当と認められるか否かを検討します。

  • 有形力行使の必要性・緊急性 vs 被侵害利益の内容・侵害態様→相当?

(相当性は要件ではなくて、結論だと思います。比較考量の結果が相当か否かが規範内容かと。ですが、判示では必要性・緊急性・相当性と並列されているのでこの3つが要件となると捉えられることもあります)

こちらのあてはめは具体的事実を存分にひろってあげましょう。決定でも「具体的状況の下で」といってますし。必要性・緊急性はどれくらいありますか?侵害される利益は何ですか?どの程度侵害されましたか?を確認します。確認した結果、必要性・緊急性が小さいが、侵害利益が重大なもので侵害態様がひどければ有形力行使は相当でない=違法ですし、逆に、必要性・緊急性が大きく、侵害利益・侵害態様が軽微ならば有形力行使は相当である=適法と判断できます。

古江刑訴の該当部分がわかりやすいです。

今日は以上です。

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