2013年12月11日

有権代理と表見代理④ 代理権消滅後の表見代理

今回は代理権消滅後の表見代理について、要件を検討します。

有権代理の要件(民99条)
代理権授与表示の表見代理の要件(民109条)
権限外行為の表見代理の要件(民110条)


まずは条文の文言から要件を抜き出します。民法112条です。

民法112条は「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない」と定めます。

「代理権の消滅は」とあるので、この条文は、代理人が顕名の上代理行為をなしたけれども、その当時には代理権が消滅していたことを前提とする規定です。ここから、代理権の消滅、顕名、代理行為の要件が導けます。

また、民法112条の「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない」との文言から、第三者が代理権の消滅を知らず、知らないことに過失がないことという要件が導けます。

以上の検討より代理権消滅後の表見代理の要件は、

  • 代理権の消滅
  • 顕名
  • 代理行為
  • 第三者が代理権が消滅したことについて善意無過失
となります。

効果について一言。民法112条が適用されると、代理権の消滅が第三者に対抗できないという効果が生じます。代理行為の相手方である第三者は代理権が消滅したことを知りません。つまり、本人からしてみれば代理権の消滅によって無権代理行為となるものであっても、第三者からしてみれば、代理人によってなされた代理行為は有権代理です。代理権の消滅が第三者に対抗できないというのは、このような第三者の認識が本人の言い分に優先するという意味です。

外観法理との比較


表見代理は権利外観法理のあらわれですから、その要件は外観法理を反映して考えるべきです。

外観法理とは、真実の実体関係とは異なる外観が存在し、その外観の作出に本人の帰責性が認められる場合、外観が存在することについて正当な信頼を寄せた第三者を保護するという制度で、①外観の存在、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼の3点を構成要素としています。

③第三者の正当な信頼は、代理権消滅について第三者の善意無過失の要件が担います。

①外観の存在、②本人の帰責性の2要素は、代理権が消滅したことが担います。

代理権の消滅がなぜ本人の帰責性を意味するのか。本人と代理人との間の取決めによって代理権の有効期間が定められた、その期間を経過したのに代理人面するような輩を代理人にした本人が悪いと考えられるからです。本人に人を見る目がないからです。代理権が消滅したのに、本人が代理権の外観を除去しなかった点に落ち度があるともいえます。

有権代理との比較


有権代理(民99条)の要件は

  • 代理権
  • 顕名
  • 代理行為
です。

対して代理権消滅後の表見代理(民112条)の要件は、

  • 代理権の消滅
  • 顕名
  • 代理行為
  • 代理権の消滅について第三者が善意無過失であること
です。

  • 99条における代理権=112条における代理権の消滅+第三者の善意無過失

となっているのがわかると思います。有権代理における代理権の要件は、本人の利益と責任を画するものです。有権代理において代理行為の責任を本人が負わなければならないのと同様に、代理権の消滅を放置した本人は善意無過失の第三者に対して代理行為の責任を負わなければならないのです。

今日は以上です。

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