2013年12月13日

手付は代金の前払いか?

実質的には売買代金の前払いとされますが、法的性格は違います。


手付とは売買に際して交付される金銭などです。「唾をつけておく」しるしとしての金銭授受です。

この手付を売買代金の一部前払いと解することはできません。

代金の一部前払いと解すると、手付は売買契約の条件ないし特約ということになります。売買契約は諾成契約なので、意思表示の合致のみで手付も成立したことになります。そうすると、実際には手付金を交付していないのに、売主が手付金の倍額を交付しないと契約の解除ができないことにもなりかねません。極論ですけど。

手付(とくに解約手付)は契約の拘束力を強めるために交付されるものです。「本当に契約してよいのか?あとで嫌になったらこの金は戻ってこないんだぞ?」と契約締結を吟味する機会をもつためです。ですので、実際の金銭等の授受が要求されます。このことから手付は要物契約と解されます。民法557条が「交付した」と表現するのも、要物契約性ゆえのことです。

手付は代金の一部前払いではないので、交付された手付を売主は返還しなければなりません。

他方、買主は、手付金とは別に売買代金全額を支払う必要があります。

ここでの手付金相当額の金銭授受を実際に行うことはありません。売主の手付金返還債務と買主の売買代金支払債務を対当額で相殺し、買主が代金残額を支払うことになります。手付は代金の前払いだ、と勘違いしてしまうのはここに原因があります。

なお、対「等」額ではないので注意。また、相殺によって消滅すると規定されているのは債権ではなくて債務であることにも注意。民法505条1項参照。

今日は以上です。

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