2013年12月8日

有権代理と表見代理② 代理権授与表示による表見代理

代理権授与表示による表見代理の要件についてです。民法109条です。

表見代理は無権代理の一種です。無権代理とは、有権代理の要件のいずれかを欠く代理であり、代理行為の効果が原則として本人に帰属せず(民113条)、その代わりに無権代理人が責任を負う
制度です(民117条)。ですが、表見代理は無権代理であるにもかかわらず有権代理同様に本人が責任を負うという特徴をもっています。

表見代理は代理の中の一制度であり、外観法理のあらわれです。ですので、有権代理との比較、外観法理との比較の中で要件を検討します。


まずは、条文の文言から要件を抜き出します。

民法109条は、「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない」と定めています。

「第三者に対して代理権を与えた旨を表示した」とあるので、代理権授与表示がひとつめの要件です。

「その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為」との表現から、ここでの行為は、自分を当事者とする法律行為ではなく、代理行為を指していることがわかります。代理行為である以上、ここでは顕名が要求されるべきです。

そして、「ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない」という但書から、第三者が代理権授与がなかったことを知らない・知らないことに過失がないこと(第三者の善意無過失)が要件とされます。

外観法理との比較


代理権授与表示による表見代理は外観法理の1つです。外観法理がどのように要件に反映されるかを考えます。

外観法理とは、真実の実体関係とは異なる外観が存在し、その外観の作出に本人の帰責性が認められる場合、外観が存在することについて正当な信頼を寄せた第三者を保護するという制度で、①外観の存在、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼の3点を構成要素としています。

③第三者の正当な信頼は民法109条ただし書にそのままあらわれています。

①外観の存在、②本人の帰責性は、代理権授与表示の要件が担います。

実際は代理権授与がないのにその表示がなされているのですから、代理権授与表示が①外観の存在を反映ていることは明らかです。さらに、この表示は、本人が自ら外観の存在を表示している、すなわち本人がウソをついていることを意味しているということができ、②本人の帰責性のあらわれといえます。

有権代理との比較


表見代理は無権代理ですが、その無権代理行為は本人が「その責任を負う」とされます。無権代理ですが、有権代理と同様の効果が認められます。ですので、要件も有権代理と対比して検討します。

有権代理(民99条)の要件は、
  • 代理権
  • 顕名
  • 代理行為
です。


対して代理権授与表示の表見代理(民109条)の要件は、

  • 代理権授与表示
  • 顕名
  • (無権)代理行為
  • 第三者が代理権授与がなかったことについて知らない・知らないことに過失がない(第三者の善意無過失)
です。

99条と109条の要件のうち、顕名と代理行為の要件は同じです。違うのは99条の代理権、109条の代理権授与表示・第三者の善意無過失です。

有権代理における代理権の存在は、本人の利益を画する要件でした。さらにいえば、代理権の範囲内でなされた代理行為の責任は本人が負うというものです。本人は代理行為の利益を享受できますが、相手から見れば代理権の範囲内での責任を負っているのです。

他方、109条における代理権授与表示は本人の帰責性を反映した要件です。「お前はウソをついたんだから、ウソの責任をとるべきだろう」という価値判断がここにはあります。ただ、誰に対してもその責任を負うとするまでの帰責性はないし、その責任を追及できるのは善意無過失の相手方に限られると考えるのがバランスのとれた結論だろうというわけです。

つまり、
  • 代理権(民99条)=代理権授与表示+第三者の善意無過失(民109条)
という対応関係になっています。


今日のところは以上です。

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