2014年1月6日

「その事実の有無にかかわらず」(刑法230条)についてと、名誉毀損罪と侮辱罪の関係

刑法230条、名誉毀損罪について補足します。名誉毀損の他の記事はこちら

「その事実の有無にかかわらず」


「その事実の有無にかかわらず」とは、名誉を根拠づける事実が存在するか否かにかかわらずの意味です。井田先生は、
生きている人に対する名誉毀損が原則として「その事実の有無にかかわらず」成立するということは、本罪の成否の判断においては、摘示された事実の真否を問わないのが原則だということであり、真実を述べても処罰され、その反面で(本当はそれほど立派な人ではないのに、人々はそのように信じているという場合、その)虚名も保護されるということである。
 と説明しています。なんと分かりやすいことか。井田先生は偉大です。

「その事実の有無にかかわらず」が、事実を摘示しなくても名誉を害する行為をした場合を指すと解するのは明らかな間違いです。それはつまり他人を侮辱する行為であって侮辱罪です(刑法231条)。そもそも、刑法230条1項に「公然と事実を摘示し」と書いてあるし。

名誉毀損罪と侮辱罪の関係


一個の文章で人を非難する際に、侮辱の語を交えて悪事を摘示し、名誉を毀損した場合は、侮辱の語は名誉毀損の態様をなすにすぎないため、名誉毀損一罪のみが成立します(大判大正3年11月26日刑録20・2265)。名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は共通しており(個人の名誉)、名誉毀損罪の法定刑の範囲で処罰すれば足りるからです。

しかし、名誉毀損罪には、刑法230条の2の真実性の証明により処罰されない場合があります。この場合、侮辱罪が成立します。名誉毀損罪と侮辱罪の構成要件に該当する場合は名誉毀損罪一罪が成立しますが、この場合でも侮辱罪は成立しており、名誉毀損罪に吸収されているにすぎないからです。答案を書く際には注意しましょう。

今日は以上です。

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