2014年1月21日

【伝聞証拠】犯行状況の再現結果を記録した実況見分調書

検証とは五官の作用によって対象を観察し認識することであり、強制処分として行うことが予定されています(刑訴法218条、220条)。この結果を書面にしたものが検証調書であり、刑訴法321条3項で伝聞例外として証拠能力を付与されます。

が、検証を受ける側が承諾すればわざわざ令状を取ってやる必要はないので、任意でも行われます。任意処分として行う検証を実況見分といい、その結果を記載した書面を実況見分調書といいます。捜査官が見て・聞いて・触って・嗅いで・舐めて分かったことを書面に記録したものです。

裁判官は実況見分の現場にはいないでしょうから、実況見分の結果は伝聞で報告されたにすぎません。実況見分調書は、公判期日における供述に代わる書面であり、供述内容(書面の内容)の真実性を立証するために証拠として提出されるものであるので、裁判官にとっては伝聞証拠です。

この実況見分調書の内容が犯行状況や被害状況を再現したものであるとき、被告人や被害者の説明、実況見分現場での供述が含まれることがあります。そうなると単なる検証の結果を記載した書面ではないので、伝聞例外としていかなる要件のもと証拠能力を付与できるかが問題になります。

これについて判示したのが最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁(H17決定。百選86事件)です。今回はこの判例を検討します。

検討の流れは、
  • 実況見分調書が伝聞証拠であることの確認
  • 要証事実は何か(「再現状況」ではなく、「再現通りの犯罪事実の存在」だ)
  • 再現者の供述は現場指示か現場供述か(現場供述だ)
  • 刑訴法326条の同意はあるか(ない)
  • 実況見分調書自体に証拠能力を与えることができるか(刑訴法321条3項の要件検討)、再現者の供述に証拠能力を与えることができるか(321条1項3号 or 322条1項の要件検討)
となります。

電車内で女性の臀部に触れた事実で起訴された事件です。立証趣旨を「被害再現状況」とする実況見分調書と、立証趣旨を「犯行再現状況」とする写真撮影報告書が作成され、証拠調請求されました。実況見分調書は、女性警察官が犯人役をし、被害者に事件当時を再現してもらったものです。写真撮影報告書は、男性警察官を被害者役にして、被告人が犯行状況を再現したものです。

それぞれの書面には、被害者(or 被告人)の説明に沿って、被害者と女性警察官(or 男性警察官と被告人)の姿勢・動作などを撮影した写真が説明文付きで添付されています。何枚かの写真の説明文には、被害者(被告人)の被害状況(犯行状況)の供述が添えられたのでした。

まず、H17決定は、
「本件両書証は、捜査官が、被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして、これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ、立証趣旨が『被害再現状況』、『犯行再現状況』とされていても、実質においては、再現された通りの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される」
と判示しています。 犯行(被害)状況の再現結果を記録した実況見分調書は、再現された通りの犯罪事実の存在を証明するための証拠であるとしました。「被害再現状況」、「犯行再現状況」という立証趣旨(のみ)が要証事実にならないのは、再現状況を立証しても無意味だからです。警察署の廊下で再現しました、取調室で再現しましたということを証明しても、だから何だ?です。


実況見分調書に刑訴法321条3項書面で証拠能力を付与するのは、調書に記載された状況が調書作成時に存在したことを立証するために取り調べるためです。このことを考えると、H17決定は、再現状況自体も要証事実であるとしているように思われます。


つづいて、H17決定は、犯行状況再現結果を記録した実況見分調書を伝聞例外として証拠採用する要件を述べます。
「このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については、刑訴法326条の同意が得られない場合には、同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより、再現者の供述の録取部分及び写真については、再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の、被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。」
つまり、

  • 同意(刑訴法326条)があれば、伝聞例外として証拠能力あり(以下のメンドクサイ認定不要
同意がない場合は、
  • 調書作成者が証人尋問を受け、調書が真正に作成されたことを供述(刑訴法321条3項)
という実況見分調書が伝聞例外として証拠能力を付与される要件と、さらに、実況見分調書中の被告人or被害者の供述が伝聞例外として許容される要件である、
  • 再現者が被告人以外=再現者の署名・押印(刑訴法321条1項柱書)+供述不能または相反供述・相対的特信状況(同項2号)、供述不能・供述が犯罪事実の証明に不可欠・絶対的特信状況(同項3号)
  • 再現者が被告人=被告人の署名・押印+不利益な事実or自白を内容とする供述は任意性に疑いがない、それ以外の内容の供述は特信状況があること(刑訴法322条1項)
が必要です。あてはめでは以上の要件を充足するかしないかを書きます。再現中の供述を含む実況見分調書は、「再現された通りの犯罪事実の存在」を証明するものである限り、当該供述の真実性が問題となります。ですので、321条1項柱書や322条1項の「供述を録取した書面」にあたり、署名・押印が必要なのです。321条1項3号の要件を満たすのは厳しいので、模擬裁判では再現者の証人尋問を請求しましょう

ここにいう供述とは、いわゆる現場供述を指します。説明文が単なる現場指示である場合は、「供述」として扱う必要はありませんから、刑訴法321条1項3号や322条1項の要件は不要です。実況見分調書を証拠採用するための321条3項の要件だけでよいことになります。


なお、本件両書証の写真については、
「撮影、現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される」
と判示されました。

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