2014年1月24日

【憲法判例】 津地鎮祭事件判決と、若干のメモ

憲法判例で名前が付いているものは裁判所の判断部分だけでなく、事実の概要も気合い入れて読みましょう。

津地鎮祭事件(最大判昭和52年7月13日民集31巻4号533頁)は、信教の自由、政教分離の分野でたたき台となる判例です。

どのような事件か(原告の請求)


原告は津市会議員のX。津市体育館の起工式が神式によって挙行され、その際に市長Yは神職報償金+供物料=7663円を市の公金から支出。

取消訴訟で争われましたが、実質は住民訴訟です(4号請求。地自法242条の2第1項4号)。いわく、起工式は憲法20条3項で禁止された「宗教的活動」であり、挙式費用の支払いは憲法89条の禁止する宗教上の組織への公金支出にあたる。ゆえに市長による公金支出は法律上の原因を欠き不当利得であるから、市長Yは神式を主催した宗教法人Aに返還を請求しなければならない。原告は「市長が不当利得返還請求すること」を請求する。これが原告の請求。

不当利得返還請求の要件である「法律上の原因なく」(民法703条)を根拠づけるために、憲法論を展開することになります。「法律上の原因」がないといえるか、起工式は「宗教的活動」か、それに対する公金支出は憲法89条に反するかが争点です。

判旨


政教分離原則の意義
「憲法は、政教分離規定を設けるにあたり、国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたもの、と解すべき」である。「政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである」。
 目的効果基準
憲法にいう「宗教的活動とは、……およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである」。
目的効果基準を用いる際の考慮要素
「ある行為が右にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するにあたっては、当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則ったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない」。

メモ


箇条書き的に書いておきます。

住民訴訟で争う場合、政教分離規定の法的性質論(政教分離は人権か制度的保障か客観法か)を厚く論じる必要はないと思われる。住民訴訟は個人の権利利益の保護を目的としない客観訴訟だから。自衛官合祀事件のような宗教上の自由ないし人格権侵害に基づく損害賠償請求の事件(住民訴訟が使えない事件)などで議論の実益がある。

津地鎮祭事件は限定分離を根拠づけるために制度的保障論を持ち出しているがその必要はないことにつき、百選Ⅰ99頁(大石眞)参照。

判例の判断手法は、「国家と宗教とのかかわり合いが原則許容されることを前提に、例外的な過度の関わり合いかどうかを目的・効果の側面から判断する」もの。また、津地鎮祭事件判決と愛媛玉串料事件判決は「公権力の行為を『一般人』『社会通念』から見て『慣習化した社会的儀礼』と評価すべきかの判断が先行し、目的・効果の判断はそれに従っているだけ」(憲法 解釈論の応用と展開122頁・123頁)。

政教分離が問題となる事例問題の場合、二通りの答案が考えられる。

その①。原告の請求、被告の反論、私見をすべて目的効果基準で統一する。違うのは基準のあてはめ方、用いる事実の評価の仕方(司法試験の問題と解説2012 21頁の中林発言参照)。上記②判決の判断手法を被告の反論で使い、私見では津地鎮祭事件判決の「諸般の事情」(行為の外形的側面に加え、①行為の行われる場所、②行為に対する一般人の宗教的評価、③行為者が当該行為を行うについての意図、目的、宗教的意識の有無、程度、④行為の一般人に与える効果、影響)にあてはまる事実をひろい、目的が宗教的意義か、効果が宗教に対する援助、助長、促進、圧迫、干渉になるかを検討し、過度の関わり合いかの結論を出す方法。判例における目的効果基準の問題点を押さえているし、私見のボリュームが大きく、目的効果基準をキチンと使っているので印象は良いとも思うが、原告の請求との違いが出しづらい。

その②。原告の請求を完全分離説に依拠し、被告の反論を目的効果基準(判例の手法)に基づいて行い(もしくは原・被告の主張は目的効果基準で対比させる)、私見をレモンテスト or エンドースメントテストで行う。判例では原則許容・例外違憲だが、原則例外を逆転させるために、原則違憲・例外許容のレモンテスト等を用いる。法的構成が異なるため、答案を作りやすい(あてはめがしやすい)と思う。レモンテスト等を用いる根拠は、憲法20条1項後段、20条3項89条の文言。すべて「してはならない」という禁止を明言しているのであるから、厳しいテストを用いるべきといえるのではないだろうか。なお、「政教分離規定は客観法である」とはこのことを意味している。国に対し禁止を義務付けているでしょう?

レモンテストとは、国家行為について、①その目的が世俗的なものであること、②その主要な効果が、宗教を助長したり、抑圧するものではないこと、③行政的あるいは政治的に宗教との絡まり合いを促進するものではないことの3点をチェックするもの。①ないし③のうち、一つでも反すれば「宗教的活動」と結論付ける。

エンドースメントテストとは、国の行為が特定の宗教を後押しするというメッセージを発するような目的・効果をもつ場合、当該国家行為を「宗教的活動」と結論付けるもの。国の行為のメッセージ性を重視する。

以上です。

0 件のコメント: