2014年3月1日

商法526条2項について。商人間の売買において、目的物に瑕疵があったときには代金減額請求ができるのか?

できません。最判昭和29年1月22日民集8巻1号198頁(百選〔第3版〕54事件)が、
「商事売買の場合でも、売買の目的物の瑕疵又は数量の不足を理由として、契約を解除し、又は損害賠償若しくは代金の減額を請求するのは、民法の売買の規定に依拠すべきものである。しかして、民法の規定によれば、買主が売買の目的物に瑕疵あることを理由とするときは、契約を解除し、又は損害賠償の請求をすることはできるけれども、これを理由として代金の減額を請求することはできない。」
と判示しており、これが判例です。

以下、問題点の所在をメモ。


民法の担保責任について概観してみます。

まず、数量不足の場合の売主の担保責任について。民法565条によると、数量指示売買の目的物に不足がある場合、買主は代金減額請求ができ(民法563条1項)、残存部分だけでは買わなかったならば善意の買主は解除できるし(同条2項)、損害賠償請求も可能です(同条3項)。

次に目的物に瑕疵があった場合の売主の担保責任について。民法570条本文によると、目的物に隠れた瑕疵があり、瑕疵の存在のために契約目的を達成することができないときは、善意の買主は契約を解除できますし、損害賠償請求できます(民法566条1項)。解除できない場合は損害賠償のみ可能です(同項ただし書)。民法上、瑕疵担保責任に基づく代金減額請求はできません

それでは商法526条を見ましょう。

商法526条は、商事売買の買主に目的物の検査義務を定め(1項)、目的物に瑕疵や数量不足があったときの通知義務を規定しています(2項)。

この商法526条2項に注目すると、商人間の売買の目的物に瑕疵 or 数量不足があった場合、売主にそのことを通知すれば、その瑕疵・数量不足を理由として契約の解除・代金減額・損害賠償請求をすることができる、と読むことも可能です。このように読むと、商法526条2項は、商事売買の売主の担保責任を定めたものと解されます。民法に規定されている売主の担保責任とは別の責任を定めたものと考えるのです。目的物に瑕疵があった場合にも代金減額請求ができることに注目してください。

商法526条2項を、民法の担保責任とは別の、商法上の担保責任を定めたものと解した場合に何が問題なのか。それは、民法では売買の目的物に隠れた瑕疵があっても代金減額請求をすることはできないのに、商法では商事売買の目的物に瑕疵があった場合に代金減額請求ができることになる、という点です。

商法526条2項の性質が問題となりますが、結論だけ。百選(第3版)54事件は、冒頭の判示部分に続いて、
「商法526条は以上民法で認められた売買の担保責任に基く請求権を保存するための要件に関する規定であつて、民法の規定するところ以外に新な請求権をみとめたものではない」
と判示し、商法526条は民法に基づく責任を追及するための前提条件を課したもので、 民法とは別に売主の責任を定めたものではないことを明らかにしました(近藤(総則・商行為)150頁)。商法526条1項・2項の検査と通知は、民法の担保責任を保存するためのものです。

以上です。

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