2014年3月27日

【憲法判例】「板まんだら」事件について簡単に

裁判所法3条の「法律上の争訟」の定義を示した最判昭和56年4月7日(民集35巻3号443頁・百選Ⅱ190事件)について。「法律上の争訟」の定義が書ければそれでイイ訳ではなくて、憲法ではどの条文の問題なのかを指摘することを忘れないように。

原告の主張(不当利得返還請求)


被告Y(創価学会)の信者であるXらは被告に寄付金を贈与しました。が、色々ありまして(事案の概要参照)、当該贈与の意思表示について、法律行為の主要部分に関して錯誤があり、この点に錯誤がかなったならば贈与の意思表示をしていなかったと考えられ、かつ、それが一般取引通念に照らしても妥当と考えられると主張します。つまり、贈与の意思表示は錯誤により無効であるという主張です(民法95条)。

寄付金の贈与は無効でありますから、Yは、「法律上の原因なく」Xの「財産・・・・・・によって利益を受け、そのために」Xに「損失を及ぼした者」です。YはXの寄付金相当額について返還義務を負います(民法703条)。

ゆえに、Xは、Yに対し、不当利得に基づく寄付金相当額について返還を請求します。

被告の反論(裁判所は審判権を有しない)


実際の訴訟では、要素の錯誤じゃないとか、動機の錯誤であるとか、色々反論するでしょうが、省略します。

重要なのは、裁判所の審判権に関する本案前の抗弁です。Xの請求は宗教上の献金の返還請求であり、国家の統治権の一翼を担う裁判所が介入するべきでないものなので、裁判所は本案判決できないというものです。

論拠は次の通り。国家作用の1つである司法権は、裁判所に属します(憲法76条1項)。司法権とは、具体的紛争に対して、当事者からの争訟の提起を受け、裁判所が統治権に基づいて紛争解決のための判断を示し、正しい法の適用を保障する作用です(芦部(4版)320~321頁参照)。裁判所法3条1項が、裁判所の有する権限が「法律上の争訟」に対して裁判することであるとしているのは、このことを規定したものです。

このように、「憲法76条1項の解釈問題である」ということを指摘しましょう。

本件では、Xの請求は裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく、司法権の対象とならないものです。ゆえにXの請求に対して裁判所は判決する権限を有せず、当該請求は却下されるべきです。

判断


「裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう『法律上の争訟』、すなわち、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる・・・・・・。したがって、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判対象になり得ない、というべきである」。Xの請求は、具体的権利義務の存否について判断を求めるものですが、法令の適用によって終局的に解決することができないものなので、「法律上の争訟」にあたりません。訴え却下。

その他解説については、百選Ⅱ190事件(宍戸常寿)参照。

以上です。

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