2014年3月11日

【憲法判例】京都府学連事件の主張反論

京都府学連事件(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁。百選Ⅰ18事件)の判決をより理解するため、判決に至るまでの議論を整理してみます。

検察官の主張


京都府山科警察署に勤務する巡査Aは、デモ行進に付された許可条件に違反する行為がないかチェックし、違反を確認したのでそれを撮影する等の「職務を執行」していました。デモに参加していた被告人は、Aの写真撮影、その後の態度に憤慨し、旗竿でAの下あごを突く「暴行」を加えました(刑法95条1項)。

ゆえに被告人には公務執行妨害罪が成立します(刑法95条1項)。

被告人の反論


公務執行妨害罪の成立には、「職務」が適法であることが必要です。しかし、以下の2点の理由により、巡査Aによるデモの監視・写真撮影は違法なものです。したがって、被告人には公務執行妨害罪は成立しません。

理由①。デモ行進は動く「集会」であり、憲法21条1項が保障する「表現の自由」の保障を受けます。したがって、デモを行うことはできるだけ自由に認められるべきです。仮にそれを制限する必要があったなら、その制限は法律で行うべきです。被告人の参加したデモには京都府公安委員会や警察署長の許可条件が付されていますが、それは条例を根拠にされています。このような条例による表現の自由に対する制限は認められません。ゆえに本件デモ行進は無条件となり、巡査Aによる監視は不要となります。巡査Aの監視・写真撮影は、理由のないものであり、適法な「職務」ではありません。

理由②。国民の権利として憲法13条を根拠に肖像権が認められます。以上のように、巡査Aによる監視・写真撮影は違法な職務執行であり、被告人の肖像権を明確に侵害します。この点を鑑みても、巡査Aの写真撮影は適法な「職務」ではありません。

問題点の所在


被告人の反論により、問題点が明確になりました。問題は、巡査Aの職務執行の適法性です。この点は、次の2点の判断にかかってきます。
  • ①条例によって集会・結社の自由を制限できるのか
  • ②憲法上の権利として肖像権が認められるのか、認められるとしてその侵害があるか
です。

判旨


①の点については、
「本条例を検討すると、同条例は、集団行動について、公安委員会の許可を必要としているが(2条)、公安委員会は、集団行動の実施が『公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこれを許可しなければならない。』と定め(6条)、許可を義務づけており、不許可の場合を厳格に制限している」
ことから、実質的には届出制なので、東京島公安条例事件(最大判昭和35年7月20日刑集14巻9号1243頁。百選ⅠA4事件)を引いて、条例で集会の自由を制限することもできると判断しました。

②の点については、
憲法13条は「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである」。
「これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」 
「しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。」
「そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。」
巡査Aによる写真撮影は、「現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものてあつて、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいつて、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであつたと認められるから、たとえそれが被告人ら集団行進者の同意もなく、その意思に反して行なわれたとしても、適法な職務執行行為であつたといわなければならない。」
と判示しました。

憲法13条で保障されている「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」=幸福追求権には、承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由が含まれること、被疑者の写真撮影が許容されるのは「①現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき」と判示したことがポイントです。

「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合」という要件は常に要求されるのか、現行犯的状況でないと写真撮影が許容されないのかについては、刑事訴訟法判例百選9事件、10事件参照。

以上です。

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