2014年3月12日

【憲法判例】泉佐野市民会館事件をメモ

最判平成7年3月7日(民集49巻3号687頁。百選Ⅰ86事件)について。主張反論形式で書きますが、実際の訴訟でなされた攻防とは相違があると思います。正確な情報が欲しい方は民集などを参照してください。

原告の主張


泉佐野市の「公権力の行使に当る公務員」である総務部長は、泉佐野市民会館ホールの使用許可についての「職務」を行う者ですが、原告の使用許可申請に対し、不許可とする処分を行いました。集会を行うことは、表現の自由の内容として憲法21条1項で保障される国民の権利です。本件会館の使用目的には集会に用いることも含まれており、したがって総務部長の不許可処分は、原告の集会の自由を「故意・・・・・・によって違法に」侵害するものです。

本件会館のような施設は「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」であり、「公の施設」と呼ばれるものです(地自法244条1項)。住民が公の施設を利用する場合、地方公共団体は、正当な理由がない限り、それを拒んではならないと定められています(同条2項)。この点からしてみても、本件不許可処分は違法です。

したがって、原告は、泉佐野市に対し、集会の自由侵害によって生じた損害について、国家賠償請求をします(国家賠償法1条1項)。

被告の反論


確かに、住民が公の施設を利用することは、原則として許されます。しかし、「正当な理由」があれば、利用許否は認められます(地自法244条2項)。地方公共団体が公の施設の設置・管理を担っていることからすれば(地自法244条の2第1項参照)、施設の適正な管理を行うため、「正当な理由」がある場合には利用を拒否すべきともいえます。恣意的な利用許否は許されませんから、どのような場合が「正当な理由」にあたるかを含め、公の施設の設置・管理に関する事項は条例で事前に定められています(同項)。

市立泉佐野市民会館条例は、本件会館の利用を許可してはならない場合を定めます(7条)。「公の秩序をみだすおそれがある場合」(同条1号)、「その他会館の管理上支障があると認められる場合」(同条3号)などです。

本件集会の実質的な主催者は、過激派の一団体で、本件申請の直後に爆破事件を起こすなどしています。本件申請を許可して集会が行われた場合、不測の事態が発生し、周辺住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあります。また、対立する過激派集団による介入も懸念されます。以上のように、原告らが本件会館を利用すると、「公の秩序をみだすおそれ」があり、ゆえに「会館の管理上支障がある」といえます。

したがって、本件不許可決定には「正当な理由」があり、なんら違法な処分ではありません。

原告の再反論


集会の自由は、特別な表現手段を持たない人々にとって貴重な表現の機会を保障するものです。このような集会の自由の重要性に鑑みれば、公の施設の利用を許可するに際して、許可しない場合を定めることは許されないと考えるべきです。したがって、本件条例7条は違憲無効であり、本権許可分は違法です。

仮に不許可条件を定めることが許されるとしても、本件条例7条の「公の秩序をみだすおそれ」や、「会館の管理上支障がある」といった文言は抽象的です。したがって、このような条件は認められません。

また、本件条例7条そのものは適法だとしても、原告には「公の秩序をみだすおそれ」はなく、ゆえに「会館の管理上支障がある」こともありません。よって、本件不許可処分は違法です。

問題点の所在:集会の自由と集会用に設置された公共施設の管理権との調整


本件条例7条の定めは許されるか(判旨は適法を前提)。

許されるとして、その解釈、「公の秩序をみだすおそれ」、「会館の管理上支障がある」とはどのような場合か。

原告に「公の秩序をみだすおそれ」、「会館の管理上支障がある」か。

判旨


①:公の施設であることの認定。公の施設の利用は原則制限されない。
本件会館は、地自法244条の「公の施設」である。原則として、「公の施設」は、設置目的に反しない限り、住民の利用が制限されない。
②:集会の自由と集会用に設置された公共施設の管理権の調整(一般論)
公共施設の管理者は、公共施設としての使命を十分達成するよう適正に管理権を行使すべき。この点から見て利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらず利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合と、「施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合」である。「このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがある」。この「制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例7条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは……憲法21条に違反するものではない。」
③:「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」
本件条例7条1号は、「広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、……単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である……。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではなく、また、地方自治法244条に違反するものでもないというべきである」。そして、右事由が存在するといえるのは、「そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならない」。「なお、右の理由で本件条例7条1号に該当する事由があるとされる場合には、当然に同条3号の……にも該当するものと解するのが相当である。」
あてはめは、百選Ⅰ86事件などを参照。

③は、②を判断するために具体的に設定された規範です。①を宣言しておくことで、集会の自由が重要視されていることが分かります。「①だからこそ②のように考えるべきで、その判断は③のようにします」、という判示です。本件条例7条該当性を判断するうえで、②③の規範が設定されました。

以上です。

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