2014年2月21日

【差押えと登記】差押債権者は民法177条の「第三者」か

無権利の法理、登記制度の理想という点を考慮して考えてみます。

「XはAから不動産甲を購入したが、登記は経由していない。他方、YはAに対して500万円を貸し付けたが、Aが弁済期を経過しても弁済しないのでAの不動産甲を競売して満足を得ようと考え、差押えをした」というケースを考えます。

Xの請求


このまま強制執行が進むとXが購入した甲は誰かのものとなってしまうので、Xは第三者異議の訴えを提起します(民事執行法38条)。第三者異議の訴えは「強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者」に認められる訴えなので、Xは甲の所有権を有することを主張します。具体的には、Aが甲を元所有していたことと、Aから甲を譲り受けたこと(売買契約)です。

Yの反論


Yとしては、Xが有していると主張する甲所有権はYに対抗できないという反論をします。不動産物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できないところ(民法177条)、Yは同条の「第三者」にあたるからです。

判断


「第三者」(民法177条)とは、当事者または当事者の包括承継人以外の者で、物権変動の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者をいいます。Yは正当な利益を有するといえるでしょうか。

XA間の甲譲渡はYの差押えより先のことです。「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」ので(民法176条)、Yが差押えをした時点ではAは甲の所有権を有していなかったと考えられます。何者も自己の有する以上の権利を譲り渡すことはできないという無権利の法理により、Yの差押えは空振りのように見えます。Aの財産を強制執行することで満足を得ようとするYは、A以外の者に属する財産については利害関係を有しません。

他方、不動産は財産価値が大きいため、権利関係を公示することを徹底させ、取引の安全を図る必要があります(不動産登記法1条)。そのため、物権変動が生じたならばできるだけ速やかにそれを公示するべきことが要求されます。このような考慮から、民法177条は登記しない不動産物権変動は第三者に対抗できないこととし、その範囲で公示を怠る者に対して制裁を与えている規定と解することができます。

そうであるならば、Yが正当な利益を有するか否かは、XとYを比較し、Xに対して制裁を加えることが相当か否か(公示を怠ることもやむを得ない事情があるか)によって判断するべきです。

この点について、Xには登記できないようなやむを得ない事情はありません。

また、不動産競売のための差押えは、債務者名義の登記を目印になされます。差押は、財産を換価するまでにある程度の時間がかかるために、その間にその財産が減少しないように、事実関係や法律関係をできる限り固定しようとするものです(和田 基礎からわかる91頁)。差押の効力は差押えの登記によっても生じますし(民執法46条1項)、差押えによって不動産の通常の用法を超える使用収益は禁じられます(同条2項反対解釈)。このような強い効果が認められるからこそ、差押えの登記は、債権者が行うのではなく、裁判所書記官が嘱託することによってなされます(民執法48条)。以上は、不動産の権利関係がすべて公示されていることを前提としている制度です。

このような諸点を考慮すれば、登記を怠ったXに対して制裁を加えることも相当であり、Yには登記欠缺を主張する正当な利益があります。ゆえに、Yは民法177条の「第三者」に該当し、Yの反論は認められます。

以上により、Xの第三者異議の訴えは認められません。

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