2014年2月23日

会社法908条1項(商法9条1項)と民法112条との関係

最判昭和49年3月22日民集28巻2号368頁(百選7事件)について。事案を主張反論で構成して判旨をより理解しやすく。差戻し後の上告審(最判昭和52年12月23日判時880号78頁。百選8事件)もあわせて。

事案は、Y会社の代表取締役Aが、会社を退任させられその登記もなされたのに、Y社代取名義で約束手形を振出したというもの。この手形のうちの1通の裏書譲渡を受けたXがY社に対して約束手形金支払請求。

Xの主張


約束手形に基づいて支払請求をするには、
  • Y社の手形への署名→「Y社代取A」という署名がある
  • 手形要件の記載
  • Xが所持する手形の裏書が形式的に連続していること
を主張します。

Y社の反論


Xの請求に対し、Y社としては、会社法908条1項(商法9条1項)の反論をします。

取締役の退任は登記事項であり(会社法909条。911条3項14号の変更)、登記事項については登記後であれば善意の第三者に対抗できます(会社法908条1項)。したがって、Y社は、
  • Aの退任登記はすでに済んでいる。Xが、Aが代取を退任したことを知らなくても、Y社はXに対してAの退任を対抗できる。Aによる手形振出しは無権代理行為であるから、Y社に帰属しない。ゆえに、Xの請求は認められない。
と反論します。

Xの再反論


このままではXの手形金請求は認められません。Xには再反論の必要があります。再反論は2つの道があります。会社法908条1項ただし書に基づく再反論①と、民法112条に基づく再反論②です。

会社法908条1項ただし書の再反論①は、
  • Xは、正当な事由によってAの退任登記を知らなかった。ゆえにAがY社を退任したことはXに対抗できない。
というものです。そして、民法112条に基づく再反論②は、
  • Xは、AがY社を退任していること=Aが有していたY社の代表権が消滅していることを知らなかった(知らないことにつき過失もない)。ゆえにAの退任はXに対抗できない
です。

注目すべきは、Y社の反論と、Xの再反論②です。会社法908条1項本文を適用すれば(Y社の反論)、XがA退任の事実につき善意であっても、Y社が勝ちます。これに対して民法112条を適用すれば(Xの再反論②)、XがA退任の事実につき善意であれば、Xが勝ちます。このように、会社法908条1項と民法112条は矛盾するわけです。ここが問題点の所在です。

なお、Xの再反論②に対し、Y社が、A退任をXが知らないことにつき過失があったとする再々反論をすることが考えられますが(民法112条ただし書)、これについては割愛。表見代理についての主張反論の構成については有権代理・表見代理の要件事実(的検討)を参照。

判旨


再反論①について。「正当な事由」(会社法908条1項ただし書)とは、地震等によって交通が遮断されたとか登記簿が滅失したなど、登記簿の閲覧ができないことについて客観的障害がある場合をいうと解されています(百選8事件参照)。たぶん正当な事由はないでしょう

再反論②について。百選7事件は、
「(旧)商法は、商人に関する取引上重要な一定の事項を登記事項と定め、かつ、(旧)商法12条(商法9条・会社法908条1項)において、商人は、右登記事項については、登記及び公告をしないかぎりこれを善意の第三者に対抗することができないとするとともに、反面、登記及び公告をしたときは善意の第三者にもこれを対抗することができ、第三者は同条所定の「正当ノ事由」のない限りこれを否定することができない旨定めている……。商法が右のように定めているのは、商人の取引活動が、一般私人の場合に比し、大量的、反復的に行われ、一方これに利害関係をもつ第三者も不特定多数の広い範囲の者に及ぶことから、商人と第三者の利害の調整を図るために、登記事項を定め、一般私法である民法とは別に、特に登記に右のような効力を賦与することを必要とし、又相当とするからに外ならない。
 ところで、株式会社の代表取締役の退任及び代表権喪失は、(旧)商法188条(会社法911条)条及び15条(会社法909条)によつて登記事項とされているのであるから、前記法の趣旨に鑑みると、これについてはもつぱら(旧)商法12条(会社法908条1項)のみが適用され、右の登記後は同条所定の「正当ノ事由」がないかぎり、善意の第三者にも対抗することができるのであつて、別に民法112条を適用ないし類推適用する余地はないものと解すべきである。」
と判示しました。Xの再反論②は認められないこととなりました。

主張と反論を戦わせたら、単に「代表取締役の退任および代表権の喪失につき登記したときは、その後にその者が会社代表者として第三者とした取引については、専ら会社法908条1項が適用され、民法112条の適用ないし類推適用の余地はない」と暗記するより分かりやすいと思いましたのでメモ。

以上です。

0 件のコメント: