2014年2月20日

否認権が行使されるときの、主張反論の一例

素材は最判昭和41年4月14日民集20巻4号611頁(百選31事件)です。まず百選の事実の概要に目を通すことを推奨します。

破産管財人の主張


否認権を行使するのは破産管財人です(破産法173条1項。以下、破産法は条数のみ)。

Y会社はA会社に対して売掛金債権を有しています(民法555条)。A会社が手形不渡りを出して支払停止となったため、Y社は、A社からY社製品や他社製品を搬出しました(確実に窃盗罪です)。後にこれら製品をY社の売掛債権への代物弁済とする合意がされました(民法482条)。

この代物弁済契約は、破産者A社がY社に対して負担する「既存の債務についてされた……債務の消滅に関する行為」であり、A社の支払停止後の行為であって、支払不能後の行為です(162条1項1号、3項による推定)。Y社はA社の支払停止を知って製品の奪還行為をしたので、A社の支払停止について悪意であったといえます(同条1項1号ただし書イ)。

したがって、本件代物弁済は偏頗行為として否認されるべきです(162条1項柱書)。

Y社の反論


否認権の対象となる破産者の行為は、破産債権者にとって有害なものでなければなりません(行為の有害性)。本来自由であるはずの担保供与・債務消滅行為について、162条が、支払不能・破産手続申立て後になされたそれらを偏波行為として否認の対象とするのは、責任財産減少によって一般債権者の利益を害するから、他の債権者との平等を害するからです。このような理由から、支払不能・破産手続申立て後になされた担保供与等に有害性を認めているのです。

そうであるならば、たとえ形式的には否認権の要件を充たす行為であっても、有害性が否定される行為は否認の対象とならないと考えるべきです。そして、以下の理由で本件代物弁済には有害性が認められません。

Y社がA社に対して有する債権は「動産の売買」によって生じたものであるから、Y社は売却代金とその利息に関してY社製品について動産売買先取特権を有します(民法311条5号・321条)。動産売買先取特権は特別の先取特権であり、別除権です(2条9項)。別除権は破産手続によらないで行使できるので(65条1項)、Y社は、A社に売り渡したY社製品に関して動産競売を申し立てることができます(民事執行法190条。民事執行法の平成15年改正により同条1項3号・2項の規定が新設されたので、動産競売の実効性が向上しました)。つまり、Y社がA社に対して有する売掛債権額は破産財団に含まれていません。「破産手続開始前に破産者が担保目的物を担保権者に代物弁済したときでも、被担保債権の弁済期が到来し、かつ、被担保債権と目的物の価額との均衡が取れている限り、破産者の行為は破産債権者にとって有害とはいえない」のです(伊藤389頁)。

ゆえに破産管財人の主張には理由がありません。

判旨


裁判所は以下のように判示しました。
「被告が動産売買の先取特権を有する原判示物件を、被担保債権額(売買代金額)と同額に評価して破産会社が被告に代物弁済に供した行為が、破産債権者を害する行為にあたらない旨の原判決の判断は、売買当時に比し代物弁済当時において該物件の価格が増加していたことは認められない旨の原判決の確定した事実関係の下においては、正当である。破産債権者を害する行為とは、破産債権者の共同担保を減損させる行為であるところ、もともと前示物件は破産債権者の共同担保ではなかつたものであり、右代物弁済により被告の債務は消滅に帰したからである。」
Y社の反論を認めました。

以上です。 

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