2014年2月16日

取締役権利義務者について、会社法854条による解任の訴えを提起できるか?

できません(最判平成20年2月26日民集62巻2号638頁。H20年判決。百選47事件)。

会社法346条1項に基づいて退任後も会社役員として権利義務を有する者を役員権利義務者といいます(取締役なら取締役権利義務者)。H20年判決では、役員権利義務者の職務執行に関し不正行為・法令定款違反の重大な事実があった場合に、会社法854条を使ってそいつの解任請求ができるかが問題となったのですが、裁判所はそれを否定しました。その理由として最も重要なのが、
「346条2項は,裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者(以下「仮役員」という。)を選任することができると定めているところ,役員権利義務者に不正行為等があり,役員を新たに選任することができない場合には,株主は,必要があると認めるときに該当するものとして,仮役員の選任を申し立てることができると解される。そして,同条1項は,役員権利義務者は新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有すると定めているところ,新たに選任された役員には仮役員を含むものとしているから,役員権利義務者について解任請求の制度が設けられていなくても,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる」
という判示です。

判決に否定的な見解は、非訟事件手続による仮役員選任の方法(346条2項・868条1項)よりも、解任の客観的事実の有無につき取締役権利義務者に主張の機会を与えることのできる解任の訴えの方が紛争解決方法として妥当であるといいます。

ですが、346条1項かっこ書がある以上、仮役員の選任という非訟事件手続のみで役員権利義務者の地位を失わせることが会社法上予定されています。すなわち、退任役員が「役員としての権利義務を有する」のは「新たに選任された役員……が就任するまで」ですが、この「新たに選任された役員」には346条2項で選任された仮役員を含みます(同条1項かっこ書)。

会社法がこのような規定となっているのは、役員権利義務者は会社法が特別に付与した暫定的な地位を有する者にすぎず、役員としての権利義務を継続させることについて合理的な期待を有するものではないからです(弥永真生 ジュリスト1370号225頁)。

原告がどうしてこのような手段で争ったのか、事実の概要を含めて百選47事件参照。とてもわかりやすい解説なので是非。

以上です。

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