2014年2月14日

会計帳簿閲覧請求権についての要件事実的検討

会計帳簿の閲覧謄写請求の理由は具体的に記載されなければなりませんが、その記載された請求の理由を基礎づける事実が存在することを立証する必要はありません(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁 百選79事件。H16年判決)。

この判示について、会計帳簿の閲覧請求をめぐる主張反論の構造を考えてみます。

以下、会社法の条文は条数のみで表記します。

株主の主張


会計帳簿の閲覧を請求するのは株主ですから、株主が、

  • ①総株主の議決権の100分の3以上 or 発行済株式の100分の3以上の株式を有すること
  • ②閲覧請求の理由

を主張します(433条1項柱書)。

H16年判決の判示によって、②の理由は具体的なものが要求されます。すなわち、単に株主の「権利の確保又は行使に関する調査」のため(433条2項1号参照)といった抽象的なものではだめということです。誤った経営についての疑いを調査するためには、具体的に特定の行為が違法または不当である旨を主張する必要があります。

具体的な理由が要求されるのは、「会社が閲覧に応ずる義務の存否および閲覧させるべき帳簿等の範囲を判断できるようにするとともに、株主等による探索的・証拠漁り的な閲覧等を防止し、株主等の権利と会社の経営の保護とのバランスをとる」ためです(西山芳喜 百選163頁)。

①および②を主張すれば、原則として閲覧謄写請求は認められます(433条2項柱書)。

なお、親会社社員にも同様の権利が認められています(433条3項)。親会社社員には持分要件が規定されていませんが、1項柱書前段と同様の要件を、親会社との関係で充たしている必要があります(リーガルクエスト259頁)。

会社の反論


会社が会計帳簿の閲覧を認めたくない場合は、会社側が433条2項各号の閲覧拒絶事由が存在することを立証する必要があります。すなわち、請求者に、
  • 閲覧請求の目的が、株主の権利の確保・行使に関する調査以外のものであること(1号)
  • 閲覧請求の目的が、会社の業務遂行の妨害または株主の利益を害するものであること(2号)
  • 請求者が会社と競争関係にあること(3号)
  • 閲覧請求の目的が、閲覧請求によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するためというものであること(4号)
  • 過去3年以内に閲覧請求によって知り得た事実を利益を得て通報したことがあること(5号)
のいずれかの事由があることを反論します。よく問題になるのは3号です。

もっとも、以上の閲覧拒絶事由については、「第1号・第2号に規定された『(請求者が)その権利の確保または行使に関し調査をなすため』にのみ請求は認められ、かつ、『会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的』の請求であれば認められないということが制度の基本であり、他は、それを敷衍して具体例を規定したもの」といわれます(江頭651頁)。したがって、3号ないし5号に該当する事由が存在する場合、それを立証すればすなわち1号事由または2号事由に該当することになり反論になります。2号事由を立証する場合もそれ自体で反論になるでしょう。

しかし、2号ないし5号事由には該当しないけれども1号事由に該当するとして反論する場合は少々厄介です。1号事由は「閲覧請求の目的が正当なものでないこと」と定めているのと同じようなものだからです。1号事由該当性の判断は、閲覧請求には、株主の権利確保のため重要な役割を果たすものである(閲覧請求によって株主が取締役の責任追及の訴えを提起するための調査ができる)という側面と、円滑な業務執行が阻害されたり、営業秘密の漏えいの危険があるという側面があることを考慮し判断されることになると思います。

閲覧請求に理由がない旨の反論は、1号事由に該当するという反論になるでしょう。H16年判決が閲覧請求の理由を基礎づける事実が存在することを株主が立証する必要はないと判示したのは、請求の理由がないことについて「会社に反証の義務を課したもの」と考えられます(西山芳喜 百選163頁)。閲覧請求の理由とはつまり閲覧請求が株主の権利の確保・行使に関する調査目的であること(433条2項1号参照)のあらわれであり、その理由がない(あるとはいえない)ことはすなわち当該目的以外の目的であるといえるからです。

以上です。

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