2014年2月21日

取締役でないのに取締役として登記してある者に対して会社法429条責任を追及する際の主張反論

最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁(百選〔初版〕79事件。S47年判例)や、最判昭和62年4月16日判時1248号127頁(百選73事件。S62年判例)では、登記簿上の取締役に対して責任追及するための理論構成として会社法908条2項を用いています。

主張反論について閃いたのでメモ。会社法の条文は条数のみ。

主張反論の論理のおおまかな流れは、①「第三者」:429条1項請求→②登記簿上の取締役:「自分は429条1項の『役員等』ではない」と反論→③「第三者」:908条2項が適用されるという再反論、です。

①「第三者」の主張


会社に対する債権者が429条の「第三者」の典型です。会社が倒産すると、債権が回収不能になるので、回収不能になった分が「損害」というわけです。この「第三者」が429条1項責任を追及する際には、
  • 主張㋐:取締役として登記してある者に悪意or過失による任務懈怠があること
  • 主張㋑:第三者に損害が生じたこと
  • 主張㋒:任務懈怠と損害に因果関係があること
を主張します。

②登記簿上の取締役の反論


「第三者」の請求に対して、
  • 反論㋕:自分は429条の「役員等」ではない
という反論ができます。「役員等」については423条1項参照。

S47年判例は、株主総会での選任手続きを経ていない名目上の取締役は429条の「役員等」には含まれない旨の判示をしていますし、S62年判例も、会社を辞任した取締役は辞任登記未了でも429条の「役員等」には含まれない旨を判示しているからです。

③「第三者」の再反論


②の反論が通れば、「第三者」の請求は認められません。なので、再反論が必要です。再反論には複数のものが考えられます。

まず、そもそも選任決議を経ていない者が取締役として登記してある場合。S47年判例の事案です。S47年判例では、
「就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたものであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく……(908条2項)の規定を類推適用して」責任追及できる
と判示しました。そこで、この場合は、
  • 再反論㋚:取締役就任登記をすることに本人の承諾があること
を再反論します。

次に、辞任後の退任登記がなされず、登記が残存している場合。S62年判例の事案です。S62年判例は注意して読む必要があります。同判例は、まず、
ⓐ 「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、(429条)に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである」
と判示し、次いで 、
 ⓑ 「取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、(908条2項)の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、(429条)にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。」

と判示しました。理論的には、ⓐの判示は、908条1項を介した429条責任追及と考えるのが有力です。ⓑの判示はS47年判例と同様の判示ですが、S62年判例では承諾が明示的になされたことを要求しています。退任した取締役は退任登記をする義務がないので、「退任登記未了の取締役の責任を肯定するためには、このような積極的な加功行為を前提にして当該取締役が登記義務者(会社)と同視される必要があるから」です(久保寛展 百選151頁)。就任登記の場合は(黙示的な)承諾でも会社と同視できるので、このような判示の違いとなっていると思われます。

したがって、この場合の再反論は、

  • 再反論㋛:辞任した者が積極的に取締役としての対外的・内部的行為をしたこと
  • 再反論㋜:辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在すること
になります。

承諾の立証について。就任の場合には就任承諾書(商業登記法47条2項10号・54条1項)で可能。退任には退任取締役の関与は求められないので、容易ではありません。「明示的」な承諾が必要なのはこのことによるのかもしれません。


再反論㋚㋛㋜により、908条1項 or 2項の類推適用が肯定され、登記簿上の取締役が会社の取締役ではないことを「善意の第三者に対抗することができない」結果、429条1項の「役員等」として扱われることとなり、責任追及が可能との結論に向かうことができます。

以上です。

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