この問題について業務財産検査役の選任請求について争われた最決平成18年9月28日民集60巻7号2634頁(H18年決定。百選59事件)を引いて考えます。この解説はとても分かりやすいです。
H18年決定
株式会社の業務執行に関し、不正の行為・法令定款違反の重大な事実があると疑うに足りる事由があるときには、株主は、業務財産検査役の選任を申し立てることができます(会社法358条1項)。この株主権は、総株主の議決権の100分の3以上を有するか、発行済み株式の100分の3以上を有する株主に認められる少数株主権です(いずれも定款で引下げ可)。
H18年決定では、検査役選任請求をした時点では原告の持株比率は総株主の議決権の約3.2%でしたが、その後新株引受権付社債(当時)を有していた者が新株引受権を行使したため、原告の持株比率は3%を下回ってしまいました。で、H18年決定は、
「当該会社が当該株主の上記申請を妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情がない限り、上記申請は、申請人の適格を欠くものとして不適法であり却下を免れない」と判示しました(えー、それちょっと株主かわいそうじゃないすか?)。
H18年決定に従うと、持株要件を充足しなくなった場合には、たとえ自らが関与していないことが原因であっても、原則として検査役選任請求は却下されます。ただし、会社が当該請求を妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情がある場合には、例外的に請求は認められます。
批判する見解と支持する見解の根拠、百選解説者の見解
これに対してH18年決定を支持する見解の理解は、検査役選任請求権のような会社に大きな影響を与える権利は、会社に一定以上の利害関係を有する株主のみ認められるべきであり、その利害関係を維持するためには、裁判の確定まで持株要件を維持しなければならないというものです。というか、検査役選任請求の原告適格は持株要件によって根拠づけられるものであり、会社法851条のような規定がない以上、原告適格の継続を認めることは難しいと考えます。いったん取得した原告適格は他者の行為によって奪われないという原則は確立していないし。
百選59事件解説の中村康江先生は、あくまでH18年決定の枠組み(原則NG・特段の事情で例外OK)に沿いながら、
「検査役選任請求後に、会社が、申立人の持株比率が下落し、持株要件を充足し得なくなることを認識しながら第三者割当によって新株を発行したときは、会社の側が当該新株発行の合理性を主張立証しえない限り、『特段の事情』が存すると解するべきであろう。そして、『特段の事情』の存否は、検査役選任請求を妨害する目的でなされた『新株の発行など(全部取得条項付種類株式の取得〔東京高判平成22・7・7判時2095号128頁参照〕・合併・株式交換・株式移転等)』について、広く検討されるべきである」と述べています。 中村氏の見解とH18年決定を併せて考えると、
- ①持株要件充たさず→原則として却下
- ②ただし、株主が「会社は新株を発行すれば持株要件を充たさなくなることを認識しながら発行した」ことを立証→「特段の事情」の存在が推定
- ③会社が新株発行の合理性を主張立証しえない限り、「特段の事情」あり
となるでしょうか。
他の少数株主権も同様に考えられるか?
裁判実務においては、取締役解任の訴えの原告適格(類型別会社訴訟 〔第二版〕I7頁)、会計帳簿閲覧請求権の申請資格(類型別会社訴訟〔第二版〕II665頁)について、本決定に基づいて判断するべきとの見解も。しかし、個々の少数株主権の性質(監督是正権か否か)、請求の方法(裁判外での請求が可能か、訴訟か非訟か)を踏まえて検討するべきでは?
文献含め、百選59事件解説の5参照。
以上です。
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