2014年2月23日

【破産・民事再生】手続開始前の中止命令をめぐる攻防

手続開始申立てから手続開始決定までの話。

手続開始決定があった後は、債権者の自由な個別的権利行使は認められないので(破100条1項・民再85条1項)、新たに強制執行等をすることはできないし、すでにされている強制執行はその効力を失います(破42条1項・2項・民再39条1項)。

このような効果は手続開始決定(破30条・民再33条)によって生じるので、手続開始決定前の強制執行は原則として許されます。ですが、倒産手続開始の申立ては実質的には財産状態が悪化し整理が必要な状況でなされるので、債権者間の平等を図るため、手続の実効性を担保するための措置が必要です。このような配慮から、手続開始前の中止命令の制度が設けられました(破24条~27条・民再26条~29条)。

手続開始前の中止命令が出てくる場面を、攻防手段という側面からみます。中止命令の対象には強制執行以外にも様々なものがありますが(破24条1項各号、民再26条1項各号)、以下では強制執行を念頭に検討します。

(個別的)中止命令


繰り返しになりますが、手続開始前は債権者の権利行使は自由です。ですので、債権者の強制執行等(破24条1項1号かっこ書・民再26条1項2号かっこ書)がなされている状態から始まります。当然ですが、手続開始申立てがなされていることが前提です(破24条1項柱書・民再26条1項柱書)。そうすると、場面は、
  • 手続開始の申立て(破18条・民再21条)
がなされ、
  • 債権者による強制執行
がなされている状態から始まります。

強制執行がなされてしまうと他の債権者としては抜け駆けされることになるので、利害関係人は、
  • 中止命令の決定(破24条1項1号・民再26条1項2号)
を求めます。

強制執行を止められた債権者は、まだ手続開始決定はされていないのに、本来自由であるはずの個別的権利行使を制限されてしまいます。なので、中止命令を覆すために、
  • 中止命令によって「不当な損害を及ぼすおそれ」があることを主張して、即時抗告をする(破24条1項柱書ただし書・4項、民再26条1項柱書ただし書・4項。即時抗告をすることができることにつき、破9条・民再9条参照)
という手段を採ります。「不当な損害を及ぼすおそれ」とは、個別執行の中止を受任させることが社会的にみて不相当と評価される場合など、極めて極限された場合とされます(伊藤107頁・108頁 注125参照)。

なお、中止命令の申立てを却下する決定に対しては不服申し立てできません(破24条4項等の文言を参照)。

攻防の流れは以上のようになります。

包括的中止命令


以上は、止めるべき強制執行がすでになされている場合です。特定の強制執行を止めるための手続です。

これに対し、将来多発することが予想される強制執行から債務者財産を守るのが包括的中止命令です(破25条・民再27条)。したがって、多くの場合、

  • 手続開始の申立て(破18条・民再21条)
と同時に、
  • 個別的中止命令では「手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情がある」ので、包括的中止命令を求める(破25条1項・民再27条1項)
ことになるでしょう。なお、包括的中止命令をするには、債務者財産に関する保全処分(破28条・民再30条)か、保全管理命令(破91条・民再79条)、監督命令(民再54条)が必要です(破25条1項柱書ただし書・民再27条1項柱書ただし書)。

包括的禁止命令がなされると、すでに始まっている強制執行も中止します(破25条3項・民再27条2項)

これに対する対抗手段としては、
  • 個別的中止命令では「手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情がある」とはいえないことを主張して即時抗告する(破25条6項・民再27条5項)
か、あるいは、
  • 包括的禁止命令により、強制執行の申立てをした債権者に「不当な損害を及ぼすおそれがある」ので、包括的禁止命令の解除を求める(破26条1項・民再29条1項)
の2つがあります。包括的禁止命令の解除は、当該命令によって中止した強制執行の債権者および包括的禁止命令の効果として強制執行の着手を禁じられた者が申立てをすることができ(伊藤111頁 注131)、その者の強制執行に限って禁止命令を解除するというものです。この「不当な損害」は破24条1項柱書ただし書・民再26条1項柱書ただし書と同様に考えます。

包括的禁止命令の解除の裁判に対しても即時抗告できるので、
  • さらに即時抗告する(破27条4項・民再29条3項)
ことも対抗手段です。

包括的中止命令をめぐる攻防は以上のようになるかと思います。

担保権の実行手続の中止命令


民事再生手続では、さらに担保権の実行手続の中止命令の制度があります(民再31条)。清算を目的とする破産手続と異なり、民事再生手続では債務者の事業の継続・再生を目的とするので、別除権行使も一定の要件を充たす限りで中止の対象にしました。攻防の流れは同様になるでしょう。

というより、担保権の実行手続の中止命令は、別除権協定や担保権消滅請求(民再148条以下)までのつなぎ、別除権者との話合いの場を設けるための手段です(山本 入門 (第3版)139頁)。個別的中止命令、包括的中止命令とは色合いが異なる制度です。

参照:担保権消滅許可(民再148条以下)の手続の流れ

強制執行等の停止の手続


強制執行は、「強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本」の提出があったときに停止します(民事執行法39条1項7号)。個別的中止命令・包括的中止命令はこれにあたります。

以上です。

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