なお、他の措置としては、効力発生後(株式発行後)の無効主張(主張方法は訴えのみ。828条1項2号または3号)、関係者の民事責任追及(423条1項、212条参照)があります。また、新株予約権についても同様の差止請求権が認められており(247条)、その主張反論も同じうようなものになると思われます。新株予約権の不公正発行を争う場合にも主要目的ルールが適用されるので(東京高決平成17年3月23日判時1899号56頁(百選98事件)参照)。
株主の主張
募集株式発行差止請求権は単独株主権であり、「株主が不利益を受けるおそれ」があるときに請求できます。そこで株主はまず、
- ①株主であること(1株以上の株式を有すること)
- ②募集株式の発行 or 自己株式の処分によって「株主が不利益を受けるおそれがある」こと
を主張します。株主の不利益は、たとえば発行等による持株比率(議決権割合)の低下などです。この請求権は募集株式の発行により自らの利益を害されるおそれのある株主を保護するためのものなので、会社の受ける不利益は要件になりません(360条、422条参照)。
次いで株主は、問題となる株式発行に差止め事由があることを主張します。210条各号の事由です。すなわち、募集株式の発行 or 自己株式の処分について、
- ③法令定款違反があること(1号) or 著しく不公正な方法によるものであること(2号)
を主張します。1号の法令定款違反で問題になることが多いのは有利発行にあたるのに株主総会決議を経なかった場合です(201条1項、199条3項)。
2号事由の不公正発行が問題となるのは不当な目的を達成するために募集株式の発行が行われる事例です。発行に支配権の維持・争奪目的や反対派の少数株主を排斥する目的がある場合です。これについてのリーディングケースである忠実屋・いなげや事件の判示は、不公正発行を根拠に差止請求する場合の主張反論について非常に参考になります。同事件は、
「株式会社においてその支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるというべきである。また、新株発行の主要な目的が右のところにあるとはいえない場合であっても、その新株発行により特定の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである。」
と判示しました(東京地決平成元年7月25日判時1317号28頁。百選 (初版)31事件)。いわゆる主要目的ルールです。判示に従うと、「著しく不公正な方法により」行われた発行であるというためには、
そこで忠実屋・いねげや事件では、支配権維持目的を立証することができなくても、著しく不公正な方法だと肯定できる場合を判示しました。「その新株発行により特定の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたる」という部分です。つまり、株主は、
- ④新株発行の主要目的が特定の株主の持株比率低下・現経営者の支配権維持にあること
そこで忠実屋・いねげや事件では、支配権維持目的を立証することができなくても、著しく不公正な方法だと肯定できる場合を判示しました。「その新株発行により特定の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたる」という部分です。つまり、株主は、
- ④´会社が、新株を発行する際に、新株発行により特定の持株比率が著しく低下されることを認識していたこと
会社の反論
以上の株主の主張を受けて、会社は新株発行が「著しく不公正な方法」には当たらない旨の反論をします。請求の相手方は会社です(210条柱書)。
株主が④´の立証に成功した場合、新株発行の主要目的が支配権維持あることを立証できなくても、「その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたる」ので、会社としては、
- ⓐ新株発行を正当化させるだけの合理的な理由
株主が④の主要目的を立証した場合であっても、新株発行に(同程度かより大きな目的として)資金調達目的が認められるので不公正発行ではないとした裁判があります(東京高決平成21年12月1日金判1338号40頁)。従業員持株支援会を割当先とする場合に不公正発行ではないとした東京高決平成24年7月12日があることも考えると、新株発行に支配権維持目的以外の目的がある場合には不公正発行ではないという反論になり得ます。そこで、
- ⓑ新株発行の主たる目的が資金調達など支配権維持目的以外にあること
も会社反論になります。
会社の反論事項を考えるうえでは、東京高決平成17年3月23日判時1899号56頁(百選98事件)も重要です。この決定では初めて主要目的ルールの例外が認められました。すなわち、
- ⓒ株主全体の利益の保護という観点から新株(新株予約権)の発行を正当化する特段の事情があること
を会社が立証できれば、支配目的が主要目的であっても不公正発行となりません。ここにいう「特段の事情」とは、「具体的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情」です。「特段の事情」として例示されたのは次の4つです。すなわち買収者が、
- ⓒ‐①グリーンメイラーである
- ⓒ‐②焦土化経営を行う目的で株式買収を行っている
- ⓒ‐③経営支配権取得後に会社資産を自己の債務の担保等として流用する予定で株式買収を行っている
- ⓒ‐④会社経営を一時的に支配して会社事業と関係のない高額資産を売却等処分させ一時的に高配当等する目的で株式買収を行っている
主張反論は以上のようになると思います。以上です。
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