2014年2月18日

招集手続の瑕疵と取締役会決議の効力について争われた最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁をメモ

判例を勉強するときは事実関係も把握するのが大事。分かってはいるんですが、雑に読んでしまいがち(とくに百選を読む際)。なので、最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁(百選66事件)についてじっくり読んでみます。

事実関係と問題点の所在


X株式会社はY株式会社に対して金銭を貸し付け、Y社はX社に対してその弁済のために約束手形を振り出しました。なので、X社は、Y社に対し、手形金の支払いを請求しました。

これに対し、Y社が次のように反論します。

手形が振り出された時、Y社代表取締役Aは同時にX社の代表取締役でした。だから、X社からY社に対する貸付けは、「取締役が……第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」にあたります(利益相反取引。会社法356条1項2号。以下、会社法の条文は条数のみで)。すなわち、当該貸付けは、X社取締役Aが、第三者であるY社のために、Y社代取AとしてX社と取引をしたものとなるのです。

Y社は取締役会設置会社なので、本件貸付けないし手形振出しについてAが重要な事実を開示した上での取締役会の承認が必要です(365条1項・356条1項柱書)。しかし承認するための取締役会について、Y社取締役6名のうち1名(B)に対する招集通知がなく、招集手続に瑕疵がありました(368条1項)。つまりY社の反論は、368条1項に違反してなされた取締役会決議は無効である、したがって本件貸付け・手形振出しについてY社取締役会の承認は得られなかったこととなる、ゆえに本件貸付け・手形振出しは無効であり、X社の請求に理由なし、というものです。

X社はさらに反論します。

いわく、①Bは名目上の取締役にすぎず、名目的にすぎない取締役は368条1項の招集手続を受けるべき取締役には含まれない、また、②問題の取締役会では6名のうちBを含む2名が欠席して開かれたが、仮にその2名が出席したとしても承認決議の意思決定には影響がなかった、と。

問題は利益相反取引である本件貸付け・手形振出しの有効性です。これはY社の取締役会の承認があったといえるか否かにかかります。Bに招集通知をする必要がないなら承認決議は有効となりますし(X社の再反論①)、Bに招集通知をしなければならなかったとしても承認決議の結果に影響がなかった事情をどのように考えるかによって結論が左右するでしょう(X社の再反論②)。

判旨


裁判所は、まずX社の再反論①について、
「取締役会を招集するにあたり、取締役全員に対してその通知を発しなければならないことは、商法二五九条ノ二の規定に徴して明らかであり、所論のように、たんに名目的に取締役の地位にあるにすぎない者に対しては右通知を発することを要しないと解すべき合理的根拠はない」
と判示し、この再反論は認めませんでした。 続いて再反論②については、
「取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきである」
と述べますが、裁判所はこれに続けて、
「その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる」
といい、X社がこの特段の事情を主張しているのでそれについて審理を尽くさせるため差し戻しました。

つまり、招集手続に瑕疵のある取締役会決議は、原則として無効である。ただし、招集手続の瑕疵が無かったとしても決議の結果に影響がないといったような特段の事情がある場合は、例外的に当該決議は有効である、ということです。

メモ


招集通知もれという瑕疵のある取締役会決議(368条1項違反の取締役会決議)が原則として無効であることの理由は、取締役会の権限の行使を慎重・適切なものとするには取締役全員の協議により適切な意思決定が行われるよう期待されているからです。招集通知をしないことは会社の業務を執行する者(348条1項)に対して取締役会に参加する機会を奪うことになるので、重大な手続違反だからです。

何が「特段の事情」にあたるかについて、百選66事件解説(山田純子)3参照。

以上です。

0 件のコメント: