2014年2月19日

支払不能の判断基準時について

支払不能の判断基準時を認定する際には、「再生手続開始原因と破産手続開始原因との違いに留意」する必要があります。「再生手続開始原因との違いを意識しておかないと、無闇に支払不能時期を前倒しすることになる」からです(小原将照 司法試験の問題と解説2012 法学セミナー増刊 (別冊法学セミナー no. 216) 308頁)。

この点についてメモ。

支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」をいいます(破産法2条11項)。すべての債務者に共通する破産手続開始原因です(伊藤78頁~)。

民事再生手続開始原因は、「債務者に破産手続開始の原因となる事実(支払不能・支払停止など)の生ずるおそれがあるとき」と、「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」です(民事再生法21条1項)。昔の和議手続においては破産手続開始原因の存在をそのまま和議手続の開始原因としていたのですが、民事再生法ではその「おそれ」でも開始原因となると定め、緩和しました(山本 入門)。

上述のように、破産手続開始原因である「支払不能」は弁済期にある債務について一般的・継続的に弁済することができない状態をいいます。これに対して民事再生手続開始原因は支払不能の「おそれ」でよいので、債務のうち弁済期にないものも含めて判断してよいと考えられます。

このような両手続開始原因の違いを考慮すると、破産手続開始原因である支払不能を判断する際に、弁済期にない債務を含めて考えることはできないことになります。破産法2条11項の「その債務のうち弁済期にあるものにつき」という文言をかみしめるために、以上の考察が必要と言えます。

偏波行為否認の事案で、「支払不能」(破産法162条1項)の解釈が争いとなった東京地判平成22年7月8日判時2094号69頁は、
「支払不能は、弁済期の到来した債務の支払可能性を問題とする概念であることから、支払不能であるか否かは、弁済期の到来した債務について判断すべきであり、弁済期が到来していない債務を将来弁済できないことが確実に予想されても、弁済期の到来している債務を現在支払っている限り、支払不能ということはできない。」
と判示していますが、これは上の意味を述べているものでしょう。

以上です。

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